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◆第六十五話『捜査の前日』

 いつも通りミスティック・リアを訪れた――能力の開発訓練はもはや日常と化していた――僕らは、早速麻夜さんに話を通してもらうことにした。


「ええ、今の話を支部長に伝えましょう。話が落ち着いたらお迎えにあがりますので、章様は鍛錬の方をいつも通りよろしくお願い致します」

「分かりました、こちらこそよろしくお願いします」


 話が一段落すると、麻夜さんは去っていった。


 さて、今日もいつも通り能力の鍛練か。

 ふと僕は、夢の中でサエカさんの言っていたことを思い出す。


『一つ、プレゼントをしてあげよう。目覚めたら、リリスに聞いてみるといい』


 そういえば、あのことをまだリリスに訊いてなかった。

 まさかとは思うが……。


「リリス、一つ聞きたいことがあるんだけど」

「あら、一体何かしら? スリーサイズ以外なら答えてあげるわ」

「誰もそんなおっさんみたいなセクハラしねえよ……。お前、何か違和感無いか?」

「違和感……? はっ……! あなた私に何かしたの!?」

「『はっ……!』じゃねえよ! 何もしてないから! そういう方向に話を持っていくな! いや、もしかしたら新しい能力とか手に入れてないかなと思って」

「まさかそんな都合良く能力を習得する筈ないでしょ。それに魔道書形態にならないと分からないわ」

「じゃあ一応確認してみてくれないか? しっかりキャッチするから」

「分かったわ、そこまで言うなら仕方ないわね」


 言うと、リリスは光を放ちながら姿を変化させ、魔道書形態へと変形した。


「…………」

「どうだった?」

「あなた私の(幻想戦争の戦闘において)大事な(魔法を司る)中身(の呪文を得るため)に何をしたの!? 夜寝てる間に(夢の中で)何かしたんでしょう!?」

「だからそういう誤解を招くような言い方をするなッ!」


 *


「引力の主は暫しの休息を謳歌せり。糸を手繰りしは我が手足。均衡を縫いて歩く術をもたらせ! 空中散歩(スカイハイク)!」


 呪文を唱えると、少しずつ自分の身体が宙に浮き始めた。


「すぐに実験してみて正解でしたね……。良い結果が得られそうだ」

「しかしこれがエネルギー操作魔法の真髄か。まさかマイナスの位置エネルギーを生み出して自らを浮かす事が出来るとは」


 周りで研究者の人達が色々と話し合っている。

 話の中身を掻い摘んで聞いてみたが、自分の能力の仕組みが分かるのは割と楽しい。


「だけどこれ、どうやって降りるんだ?」


 段々と自分の身体が天井に近づいていく。そして――


「痛っ!」


 ――ついに僕は頭をぶつけた。

 そしてそのまま転落しかけ――


「危ないッ!」


 ――咄嗟に実体化したリリスに助けられた。


「…………ナイスキャッチ」

「言ってる場合じゃないわよ……」


 彼女は僕に見せ付けるかのように大きく溜息をつく。


「しばらくは狭い部屋で訓練した方が良さそうね」

「……章様」


 ノック代わりに壁を叩き、呼び掛ける麻夜さん。

 僕らが彼女の方を向くと、彼女は淡々と言い放った。


「支部長室へご案内します」


 *


「実の所、結城詩織さんと同じ目に遭った魔法士が他にも何人か居る」

「本当ですか!?」

「ああ、原因不明の記憶喪失だよ。原則に則ったものだと思っていたが、日常生活の記憶まで失っていてね。原則に則った記憶喪失は()()()()()()()()()()()だからね」


 そこまで考えは及ばなかった。まさか他にも犠牲者が出ていたなんて……。

 驚きのあまり言葉が出ない。


「つまり、私の考えてたことは概ね証明されたって訳ね」


 腕を組みながら壁に寄りかかっていたリリスは、真剣な面向きでそう言い放った。


「我はそのような能力の竜人なんて聞いた事もないが」


 (シェマグリグ)がひょこっと机の奥から飛び出してきた。


「うおっ、居たのかシェマグリグ」

「我が居ないところであちらの情報は何も掴めぬだろう」

「……それにしても、時に取り残された空間で魔法を使えるのは魔法士と竜人と守護天使だけの筈よ。少しおかしな話になってきたわね」

「……裏切り者が居るということか?」


 空調の音がやたらとうるさく聞こえてくる。部屋の中の空気は澄んでいながらもどこか重苦しく感じた。


「私は第三の可能性を支持するわ」

「第三の可能性……?」

「悪魔陣営が干渉してきたのかもしれない」


 シェマグリグがリリスの見解を一笑にふせる。


「ただの憶測に過ぎない」

「いえ、一番合理的な考えの筈よ」

「合理的……か」


 リリスがシェマグリグを強く睨みつける。

 こんな時詩織だったら両側を宥めてくれるのだろうか。

 僕がやって上手くいくとも思えなかった。


「調査に関しては我々も協力しよう。我々としても魔法士の記憶が無くなり戦力が減退するのは良いことだとは思っていない。恐らく宮本支部以外も協力することになるだろう」

「ええ、そうしましょう」

「交渉成立、だな」


 *


 その後支部長室のドアを閉じると、リリスは大きく溜息をついた。


「駆け引きでしか協力出来ないのかしらね、あの人たち」


 彼女の言葉に僕は苦笑いで応えた。


≪ 第四章 完 ≫

 ご愛読ありがとうございました。無事第四章が完結しました。

 第五章のプロットを立てるので、しばらく更新をお休みします。

 どうか気を長くしてお待ちください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] リリスと章との急速な仲の進展(というか、リリスが甘えたなだけ?)に少し戸惑いましたが、シェマグリグという合間に存在する誰かがいることで場面がぐっと引き締まったと思います。 [気になる点] …
2020/11/01 19:47 退会済み
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