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◆第六十四話『二度目の見舞』

 次の日。僕とリリスは、記憶喪失になった詩織の元へと、再び訪れた。


「アキくんに……リリスさん、ですよね? また来て頂けたんですね」


 どこか他人行儀な詩織の台詞に、表情を曇らせるリリス。彼女は感情を隠すことが出来ないらしい。

 そんな彼女の表情を見た詩織は、申し訳なさそうに苦笑する。


「ごめんなさい……。何でここ最近の記憶だけが無いんでしょうね……」

「責任を感じる必要はありません、詩織。あなたのせいではないのですから」

「ありがとうございます、テレサさん。……不思議ね、あなたと会った記憶なんて無いのに、どこか懐かしい気分になるの。出来れば、私とあなた達のこと、詳しく教えてくれる?」

「……分かりました。今更嘘なんてついたところで、どうしようもありませんからね」


 テレサさんは詩織と一緒に居た時間が一番長い筈だ。僕らは一緒に行動した時の詩織しか知らない。

 テレサさんが口を開き、これまでのことを説明し始めた。


 そこから先は長かった。テレサさんが詩織に出会った時の話から始まり、章が魔法士仲間であることが発覚したこと、一緒に遊びに行ったこと、初めての戦闘のこと、ミスティック・リアでのこと、脱退後の鍛錬のこと、大怪我をした時のこと……。


「そっか……ここ二週間くらいの間に、色んな事があったんだね。ありがとう、本当のことを話してくれて」


 追及していた時とは打って変わって、彼女は表情を綻ばせた。

 そう、彼女はこの笑顔が武器なのだ。


「信じるのか?」

「そりゃあんなタネも仕掛けも無い手品見せられたらね」

「そっか。……詩織を記憶喪失にした犯人はもう成敗したからな」

「ありがとう、アキくん。アキくんは、私のヒーローだね」

「なっ……」


 ニコニコと無邪気な笑顔で詩織は言う。思わず紅潮して言葉を失ってしまった。

 じとーっとした目で見てくるリリスからの視線が痛い。テレサさんは微笑みながらその様子を観察していた。


「そう言えば、気になることがあるんだけど……」

「気になること?」


 リリスが真っ先に反応する。


「私、倒れる直前の記憶だけ思い出した――というより夢で見た――んだけどね、気のせいかな、二人居た気がするの。でもアキ君たちが倒したのって一人でしょう? もう一人はどこ行ったんだろう……」

「なんですって……?」


 詩織の言葉に、目を丸くするリリス。テレサさんは顔を(しか)めていた。


「その話、詳しく聞かせて貰ってもいいかしら?」


 リリスは思わず身を乗り出す。


「わかったわ。……私が部屋で寝てたらね、突然玄関のドアが開く音がしたの。テレサが入ってきたのかと思って、とても眠かったからそのまま放っておいたわ。でもそれがいけなかったのね。階段を登ってくる二人組の足音がして、気づいた時にはもう遅かった。私の部屋に押しかけてきて、突然身体が動かなくなった」

「金縛りか……?」

「いや、重力操作グラビティコントロールの能力でしょう」

「なるほど」

「続きを、詩織」

「うん。その後、お腹がとてつもなく熱くなったの。出血してるんだってしばらくして気付いた。せめて相手の顔を見ておこうと思って、目線だけ動かしたわ。そしたら私の頭に手を翳してきて……それから先の記憶が無いわ」


 詩織の話が終わると、思わず場が静まった。


「なんてことだ……」


 全員がこう思ったことだろう、「まだ事件は終わってなかったのだ」と。


「詩織の話から判断して、誰かが記憶を抜き取った可能性が考えられますね」

「でも、何故直前の記憶だけが……?」


 うーん、と皆で頭を捻る。


「あっ!」


 リリスが何かに気付いたようだった。


「もしかしたら、私の能力が良い方向に働いたんじゃないかしら?」

「リリスの能力? 回復魔法のことか?」

「そう! 前に説明した通り、私の魔法は傷が出来る前の状態に戻す原理の魔法で、使い過ぎるとたまに記憶の混乱とかが起きるのね。でも今回はその副作用のお陰で、逆に詩織ちゃんに記憶が戻ったのよ!」

「なるほど! そういうことか! お手柄だ、リリス!」

「もっと褒めてもいいのよ?」


 ドヤ顔で手を組むリリスを横目に、僕はどうやって詩織の記憶を盗んだ相手に接近すればいいか考え始めていた。


「とりあえず、今の事をミスティック・リアに相談してみるか。せっかくよりを戻した訳だし」

「そうですね。能力引き上げ訓練もあることですし、とりあえずこれからミスティック・リアに向かいましょう」

「え、帰っちゃうの?」


 詩織は大きな目で僕らを見つめてくる。

 どこか庇護欲を掻き立てられる態度だ。

 どうする、アイフr


「また明日来るから。それにテレサが付いてるからね。それじゃ、私達は行くわ」

「またな、詩織」


 残念そうに微笑む詩織の顔が、目に焼き付いた。

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