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◆第四十七話『能力の真価』

 それから昼食を取ると、その日の午後は、リリスの提案で、遠隔操作(リモートコントロール)の制御訓練を行うことになった。

 シェマグリグとの戦いで突如覚醒したこの力だが、魔導書形態のリリスを開くと、その詠唱がちゃんと読めるようになっていた。


遠隔操作(リモートコントロール)!」


 その制御訓練の内容はというと、何のことはない、リリスが用意した荷物をある場所からある場所へと移動させるものだった。

 しばらく続けると、僕はその地味さに飽き飽きとしてきた。


「しっかし地味な訓練だな、これ」


 うんざりして僕はつい愚痴を吐く。


「地味な訓練こそ本番の時に役に立つのよ。訓練は本番のように、本番は訓練のように、ってね」


 リリスは学校の先生のようなことを言う。あまりその言葉は僕の心には響かず、変わらぬテンションで、僕は黙々と訓練を続けた。


『あまりスピードは出さないで、まずは正確さを重視して』と訓練を始めた時、リリスは言った。


 使っている荷物は直方体のブロックなのだが、ただ移動をイメージするだけでは、斜めになったり荷物同士がぶつかったりと、小さな失敗が多い。


 果たしてこの作業の正確さが実を結ぶ日が来るのだろうか、どちらかというと破壊力の方が役に立つのではないか、と、僕は少しだけ疑問を持った。しかし、そこはリリスのことを信じる事にした。

 いつもリリスの作戦には助けられてきた。だから、今回も考えがあるのだろう、と、僕はそう思った。


 なんだかんだで、出会った時よりも、僕はずっと彼女のことを信用している。

 彼女は少し癖があるが、今となってはそれも愛おしい。

 苦難を共に乗り越えてきたからだろうか。出逢ってからの時間は長いとは言えないものなのにも関わらず、不思議と彼女との絆は、誰よりも強いものに成長している気がした。


「そろそろ休憩にしましょう」


 リリスが話し掛けてくる。ふと時計を見ると、訓練開始から既に一時間弱が経過していた。

 緊張の糸が切れると同時に、急に疲れが襲ってきて、思わず僕はその場に座り込む。

 するとリリスは実体形態になり、真剣な顔で話し掛けてきた。


「章、丁度いい時間があることだし、あなたの能力について話があるの」

「僕の能力について?」


 彼女はゆっくりと頷くと、話を進める。


「そう。私、あなたの能力について誤解してたみたい。そしてそれはきっと、あなたも同じ」


 正直、意味が分からなかった。僕の能力についての、誤解。話が読めない。

 思わず、眉にしわを寄せる。


「あなたの能力は、火炎を使う魔法だって、思い込んでたの。でも、それは違った。以前バーチャル空間で、光を灯す魔法を習得したでしょう? 今思えば、あの時から変だった。あれは光であって、炎じゃない。一人には一つの能力しか習得出来ない筈なのに、あなたは炎以外のものを扱える。これはおかしなことなの」


 なるほど、一人には一つの能力しか使えないっていう制約があったのか。初めて聞いた。


「そして、あなたはついに遠隔操作(リモートコントロール)を発現させた。それで私は確信したわ。あなたの魔法は、火炎魔法じゃない」


 だとすれば……なんだと言うのか?

 炎であり、光であり、遠隔操作が可能なもの。

 僕が自力でその発想に至る前に、リリスは結論を口にした。


「あなた……エネルギーを操作してるのよ」


 エネルギーの、操作……?

 確かに、熱エネルギー、光エネルギー、位置エネルギー、並びに運動エネルギー。僕の魔法は一つ一つに対応している。


「正直、この発想に至った時、私はとても驚いたわ。この魔法をマスターしたら、とんでもない化け物が出来上がる……ってね。だから、精進しなさい。この幻想戦争の命運を分ける人物になるかもしれないんだから」


 とんでもない化け物、命運を分ける人物……。

 正直、実感が湧かなかった。僕の魔法はそんなに立派なものなのだろうか?

 あまりの現実味の無さに、僕はしばらく茫然としていた。


「なるほど、面白い。見込み通りだ」


 猫化したシェマグリグが屋上に上がってきた。


「だが、あまり公にしない方が()いだろう。少なくとも、竜人(ノガルドティアン)の前でその考えは口にしない方が()い。あまり広がり過ぎると、若い芽を早めに摘もうと狙われる可能性がある。貴様はまだ伸び代がある。そんな貴様が途中で敗退するのは、興ざめという他あるまい」


 偉そうに言っているが、一応心配してくれているようだ。


「僕は願いを叶えなきゃいけない。だから、何としても生き残らなきゃいけない。その為なら、何だってするさ。若い芽だろうと、成長して花が咲くまで隠れ通せばいい。自明の理だ」


 シェマグリグが鼻で笑う。僕は不思議とそんな彼の笑い方が不快だとは思わなかった。


「せいぜい頑張れよ、少年」


 一言告げると、彼はまた階下へと降りていった。


 その後の訓練で、実戦でなんとか使える程度には遠隔操作(リモートコントロール)を使いこなすことが出来るようになった。

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