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◆第三十七話『彼女の手紙』

「新しい手紙?」


 将大からの問い掛けに、僕は大きく頷いた。


「今朝郵便箱を確認したら、麻夜さんからの新しい手紙が届いていたんだ。全員で集まった時に開いた方がいいと思って、まだ封を開けてない」

「あら……あなた、いつの間に……」


 リリスは目を丸くしている。


「別に隠すつもりは無かったんだ。というか、出掛けに話そうと思ったけど、お前がいらんことするから……」


 僕が呆れて溜息をつくと、彼女はそっぽを向いて口笛を吹いた。


「何があったのかはどうでも――一応今後の為に頭に情報として入れておきたくはあるけど――いや、この際どうでもいいから、手紙の内容が知りたいわ」


 文先輩が何やら回りくどいことを言っているが、僕は大して気にせずに手紙の封を開けることにした。


「どうやらライバルは強敵揃いですよ、詩織」

「えっ、えっ、テレサ、一体何を!?」


 テレサさんと詩織も何やら小声で何かを話しているようだが、大して気にしないことにする。


「じゃあ、読むぞ」


 号令など無くても、この統率が取れた一班は、すぐさま静粛とした。


「歳末ご多端の折、皆様におかれましてはますますご無事でお過ごしのことと心よりお慶び申し上げます。

 さて、今回お手紙をお送り致しましたのは、竜人(ノガルドティアン)の上層部、七幹部のうちの一人の能力が判明した為でございます。

 彼の能力は巨大化(ジャイアントグロース)、身体を巨大化させる魔法でございます。その大きさは百メートルに達するとか。

 上層部宜しく、あまり自ら前線に出ることは無いようですが、東京の都市部に時たま出現していることから、関東周辺を統括しているようです。

 特に弱点などは判明しておらず、あなた方、特にリリス様にお力添えして頂ければ幸いです。いつあなた方の前に姿を現すとも限りません。

 それでは、時節柄、どうぞご自愛くださいませ」


「上層部……か」


 リリスは何やら上の空だった。


「巨大化するっていったって、どうしろってんだ……」


 将大が独りごちる。


「お約束の、連結部分とかないのか?」


 僕がリリスにした質問を、テレサさんが拾う。


「ゴーレムを召喚するようなものならともかく、手紙を見る限り、これは自分を巨大化するようなもののようですし、それは難しいのでは……」

「……だけど、巨大化するだけなら大した脅威にはならないんじゃない?」


 文先輩の奇抜な発言が耳に入ると、その場の皆が、彼女を静かに見つめた。


「それはどういうことだい、あややん?」

「拾うのがあなたなのは不本意だけど……この際それはいいか。巨大化するならそれなりにエネルギーが必要な筈でしょ? どうやら魔法には適性が必要みたいだし、それ以外の魔法は恐らく使えないのよ。だから、きっとただ巨大化するだけ。そりゃ一般人とゴジラなら、ウルトラマンが居ない限り、人側が圧倒的に不利だけど、私達には魔法が使えるのよ? 戦えないってことはないんじゃないかしら」

「ふむ、確かに。だが……」


 全員の視線が今度はレシムさんに集まる。


「相手とて関東周辺を治める者、そう一筋縄ではいかんじゃろうて」

「そうですね、私もそう思います」


 彼の発言に、テレサさんが同意した。


「相手は人間とは別の種族……竜人(ノガルドティアン)ですから。彼等には硬い鱗がありますし」

「そうなのか? そりゃ本当にゴジラみたいだな……」


 将大たちの発言を横目に、僕は先程から一度も口を開かないリリスを気にかける。


「おい、リリス、どうした?」

「…………」

「おい、リリス!」


 僕が少し語気を強めて言うと、その場がしーんと静まった。


「えっ……何?」

「何って……さっきから一度も口開いてないだろ。大丈夫か?」

「……いや、大丈夫。ちょっと気にかかることがあっただけ」


 本当に大丈夫か? と、僕は溜息をつく。


「それで、リリスは対処法とか思い付かないのか?」

「対処法……ああ、巨大化(ジャイアントグロース)の、ね」

「麻夜さんのお墨付きなんだから、真面目に考えてくれ」


 リリスは右腕を左手で抱え、右手をあごに置いて、しばらく考えていた。そしてその様子を、気長に僕達は見守った。


「巨大化するなら、動くスピードは落ちるはずよ。それに、制御が大変になる」

「……どういうことだ?」


 僕は彼女に問い掛ける。


「例えば、二メートル四方の私たちがいるでしょ。かなり大きめだけど計算しやすいし、仮にそうしましょう。竜人(ノガルドティアン)ならこれくらいだしね。それが、百メートルになると、高さは何倍?」


 周りを見回すと、僕に期待の目線が注がれていたので、仕方なく答えることにした。


「まぁ順当にいって五十倍だろうな」

「じゃあ、大きさは?」

「え?」


 リリスの質問の意図がわからず、僕は狼狽する。


「いえ、これは質問が悪かったわね。高さが五十倍なら、体積は?」

「十二万五千倍……そういうことか」

「えっ、えっ、どういうこと?」


 それまで静かに会話を見守っていた詩織が、初めて口を開いた。


「高さが五十倍なら、身体の大きさ――つまり体積――は、縦、横、高さがそれぞれ五十倍になるせいで、五十の三乗倍、つまり十二万五千倍になる。だから、動かすために必要なエネルギーは、単純計算で、五十倍ではなく、十二万五千倍になる」


 なるほど、とその場の全員が納得する。


「おいしいとこ持っていっちゃって……」


 リリスは眉をひそめて僕を睨んだ。


「わ、悪かったよ。そんなつもりなかったんだ。今度スクランブルエッグ作るから」

「あら、良い記憶力じゃない。毎朝作って貰おうかしら」

「倹約したいからそれはやめてくれ……」


 レシムさんが大きく咳払いをする。

 彼の意図を汲んで、僕は話を元に戻すことにした。


「閑話休題。話を元に戻すよ。で、リリス、続きは?」

「動きが遅くなる、とてつもないエネルギーを消費する、以外に目立った欠点はなさそうなのよね……。ただ、魔法の規模を考えると、これは彼の切り札だと考えてよさそう。それに幹部クラスなら、体術も得意なんじゃないかしら」

「それは巨大化すると厄介そうだ……」

「「「「…………」」」」


 全員が言いたい事を言い終えたらしく、場が静寂で満ちる。


「こんなところでいいんじゃないかしら? 一応弱点みたいなものは考えられたのだし」


 文先輩の提案にそれぞれが頷き、なし崩し的に会議は終了した。

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