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◆第三十四話『帰路の奇襲Ⅰ』

 文、将大達とは途中で分かれ、家が隣同士である僕と詩織は、それぞれの自宅へと歩みを進めていた。


「もう大分暗くなってきたけど、大丈夫か?」

「だから、真っ暗じゃなければ大丈夫なんだってば。ところどころに街灯あるでしょ?」

「……反論出来るくらいの元気はあるみたいで安心したよ」


 言うと、しばらく無言で家を目指す僕ら。

 すると、突如として、それは起こった。

 僕らの家の反対方面から、赤い世界が半円状に広がり始める。


「嘘!? ただでさえ疲れてるのに……」


 詩織が弱音を吐くも、敵は待ってはくれない。

 赤い世界が僕らの位置まで到達すると、いつものようにリリス達が魔導書形態へと強制的に変化した。


「ふふ、最初は怖がっていましたが、もう慣れたものですね」


 テレサさんが柔らかな口調で言う。


「とりあえず中心地に向かおう」

「そうしましょうか。二人とも(たくま)しくて結構だわ」


 リリスもまるで我が子の成長を見ているかのように、微笑した。


 さて、次に竜人(ノガルドティアン)に会ったら、戦う前にどういう行動を取るか、僕は決めていた。

 上手くいくとは、思えなかったが……。

 それでも、やる価値はあると思った。


 ところが中心地に着くも、竜人(ノガルドティアン)の姿は見当たらない。


「おい、竜人(ノガルドティアン)、居るんだろ? 出てこいよ」


 もし姿が見えていたなら、リリスは僕の行動を奇異な目で見た事だろうと思う。


「章、あなた、何を……?」

「竜人!」

「……何のつもりだ……?」


 その場に僕らの四人以外の声が響き渡る。姿は見せていないが、恐らく竜人(ノガルドティアン)だろう。


「話し合いに応じる気はないか……?」


 駄目元で話し合おうとする。


「馬鹿げたことを。話し合いに応じて、どうなるというのだ? 司令部ならともかく、我ら雑兵(ぞうひょう)に大した権限などありはせぬ。私は己の信念の為に、上の指示に従って戦うだけだ」

「戦って、どうなる……?」

「……なんだと?」


 風向きが、変わった。


「憎しみあい、殺し合うことに何の意味がある? 同じ人間なんだ、話せばきっとわかる筈だ」

「バカバカしい……そんな考えで戦争が終わるのなら、もうこの世からとっくに戦争は無くなっている」


 正直、正論だと思った。でも、やれるだけのことはしたい。戦わずに済むなら、それがいい。僕は、あえて話の方向を変えてみることにした。


「お前らがこちらの世界の神に反逆して、この戦争を起こしたことくらいは知ってる。隕石が衝突する前までは、とても信仰深い一族だったことも。だけど、仮にサーフォリザーフが悪かったとして、お前らの信じる新しい神が、信用に値するのか?」

「それは、どういう意味だ?」

Anneheg(アネヘーグ)とやらを作った神様は、止めようともせず、ただ争う合うのを眺めてるだけじゃないか。そんな利己的な神様なんて、信用していいのか?」

「……!? 貴様、ルシフェル様を愚弄する気か!?」

「……ルシフェル……か。やっぱり、そうだったのね」


 思わぬ単語が出てきて戸惑ったが、それ以上にリリスの意味深な発言に、僕は驚いた。


「くっ! しまった、機密事項が……!」

「……こっちだとルシファーっていうのは最高位の悪魔だって言われてるんだ、そんな奴が信用に足るとは、思えない」

「…………」

「そんなことより、姿を見せてくれないか?」

「貴様らを、許す訳にはいかぬ……!」

「ッ!? 駄目か……!」

「よくもまぁ、綺麗に地雷を踏んじゃって」


 交渉は決裂し、リリスに呆れられる。


「能天気なこと言ってる場合じゃないぞリリス!」

「詩織! 結界を!」

「わかった!」


 詩織は右手を地面に向け、呪文を唱える。


「我は天界の加護を受く者なり! 大地に巣食う精霊どもよ、霊気を以て我が盾となり、眼前の脅威からこの器を守りたまえ! 結界(スピリチュアルバリア)!」


 結界が展開され、周りがガラス張りの部屋のような様相になる。


「一先ずは安心――ゔっ!?」


 突然、腹に鈍痛を覚える。


「どうしたの章!?」

「なんか、腹に鈍痛が……がハッ!」


 今度は背中に何かがぶつかったような衝撃を覚え、思わずうずくまる。


「間違いない……ッ……ゼロ距離で殴られてる……!」


 夜で大分視界が悪いとはいえ、見逃すことなんて有り得るのか……? しかも、結界が張られている筈なのに……。


「テレサ、結界は機能してるの!?」

「ええ、結界自体は問題なく展開されています、詩織! しかし、一体どうして……?」

「すり抜けられてるっていうの……?」

「詩織、一度結界を解いて。とりあえず撤退するわよ!」


 誰もが焦燥感に呑まれる中、リリスだけが冷静だった。僕は彼女を抱えて、詩織と共に闇雲に走り出した。


「見えなくなる魔法、か」

「リリス! あなたはこのような魔法をご存知なのですか……?」


 テレサさんがリリスに縋るように言う。


「いくつか候補はあるけど、とりあえず今は撤退して態勢を整えることが先決ね。出来るだけ、明るい場所へ。章、心当たりはある?」

「この時間なら高校のグラウンドがライトに照らされて明るいんじゃないか? でも、何で明るい場所に……?」

「一番可能性の高い魔法を防ぐ為よ。いいから早く!」

「言われなくても急ぐよ!」


 僕らは改めて作戦を立てるべく、その場から一時撤退した。

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