◆第三十二話『今後の展望』
「まず、これから残りの時間をどう過ごすかだけど、あなた達から何か提案はある?」
リリスの呼びかけに、各々が考え始める。
「まず、遊び歩くわけにもいかないわよね、いくら自由な時間が増えたからって」
最初に口を開いたのは文先輩だった。こういう時に最初に何かを思い付くのは、決まって彼女だ。
「適度に息抜きをするにしろ、これからも魔法の鍛錬はすべきだと思います」
「賛成だ。呆けている場合ではない」
真面目なテレサさんらしい意見が続き、レシムさんがそれに同意する。
「真面目なあなた達ならそう言うと思ったわ」
どうやら、リリスは彼女達の意見を見越していたらしい。
「リリス殿、何かこれからの展望について、提案があるようだな」
「ええ、もう場所を用意してあるの」
話についていけていない僕たち魔法士は、互いに顔を見合わせる。
「場所って、何の?」
僕の投げかけた疑問に、彼女は不敵な笑みを浮かべると、高らかに宣言した。
「鍛錬場よ。……冬休みの間に、魔法の特別講習をしましょう!」
彼女の発言に、全員の目線が集まる。
「なるほど、鍛錬か……熱いな!」
鍛錬――いかにも将大の好きそうな単語だ。
「しかし流石だの。既に準備は整っておるということか」
「ええ、リリスらしいスマートさです」
仲間達が頷きながら感心していたが、僕には一つだけ疑問点があった。
「だけどリリス、お前基本的にずっと僕と一緒に居たはずだよな? いつの間にそんな場所探し出したんだ?」
僕の言葉に、リリスは泰然とした態度を取っている。
「あら、探すも何も、あなたも私もよく知っている筈の場所よ?」
「僕がよく知っている場所……?」
しばらく考えるも、心当たりがない。
「例の廃ビルよ」
「ああ、あそこか」
僕は掌に拳を載せて納得した。
「廃ビルって……裏山のお化けビル?」
それまで大人しく話を聞いていた詩織が会話に加わる。僕らの世代では、あの廃ビルは知らない子供が居ないほど有名だった。PTAによって注意喚起がされてからは、誰も近付かなくなったが……。
「でも、どうやって中に? まさか裏口の階段から……?」
ああ、そういえば、詩織は僕が魔獣に襲われた時の話を知らないんだった。
「いや、シャッターが壊れて中に入れるようになってるんだよ」
「え、どういうこと?」
僕は先日の事情を説明した。
「そう、そんなことがあったんだね……」
「おお、アッキーの武勇伝だな!」
「武勇伝だなんて、むず痒いな……」
「武勇伝ヒューヒュー☆」
レンの茶化しにちょっとだけイラッとする僕。今なら文先輩の気持ちが少しだけわかる。
レンの態度を見て、彼女は額に手を当てて呆れていた。
そしてそんな僕らの様子を見て、咳払いをするリリス。話を前に進めたいのだろう。
「とにかく、その廃ビルで毎日鍛錬をすることを提案するわ」
「確かに、あそこなら誰も来ないだろうしな」
僕らの中で、誰も反対者は居ないようだった。
「しかし、万一誰か来たらどうする? 騒ぎや噂になっては困る。ミスティック・リアの情報操作を頼りにするわけにもいかん」
レシムさんの心配を他所に、オルハリコンを掌に召喚して見せるリリス。
「ほう、記憶操作用のオルハリコンか」
以前、僕らが魔獣に襲われた時の隠蔽に使った装置だ。
「最悪の場合はこれを見せればいい」
「それを持っておるのであれば、人目に関する問題は無いの」
しばらくの間、場が静まったところで、次に口を開いたのは将大だった。
「でも、俺らはともかく文さんは場所が分からないんじゃないか? 俺らだって危ういのに……」
将大は鈍感なところもありながら、意外と気が利く奴だ。
「ええ、だから、これから早速現地に向かおうと思っていたところよ」
「え? 今から?」
僕は思わず溜め息をついた。
「ちょっと面倒だな、それ……」
僕の態度にもリリスは屈しない。
「でもみんなパフェは食べ終わってるみたいだし、帰宅ムードになったからこの話をしたのよ。善は急げ、ってね。早速荷物をまとめて行きましょう!」
本当にリリスには振り回されるな、と呆れつつ、そんな所も嫌いじゃないなと、思い直す僕だった。