表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/118

◆第三十話『エゴと追及』

「……なんだって?」


 詩織から受けた電話で目を覚ますと、僕は突如として、彼女に驚きの告白を受けた。


「それは、本当なのか?」

「うん、この目で見たから間違いないよ」

「……将大に連絡する。他に用件は?」

「いや、特にないよ」

「わかった。切るぞ」


 一旦受話器を置き、溜めていた息を吐き出す。


「章、どうかしたの?」


 リリスが上からリビングに降りてきた。


「リリス、離脱する決心が固まったよ」

「……どういうこと?」


 僕の言葉を受けて、彼女は眉をひそめた。


「ミスティック・リアは危険な実験だけじゃなく、捕らえた竜人(ノガルドティアン)への拷問を行っていたんだ。もうこんな組織、信じる訳にはいかない」

「…………」


 神妙な顔で、何も言わずに僕の顔を覗き込むリリス。

 ……反対されるだろうか?


「悪いけど、リリスがなんと言おうと離脱させてもらう。確かに、能力の開発は出来るだろうけど――」

「反対はしないわ」


 僕はリリスの反応に少し驚いた。


「ちょっとだけ……意外だ。もっと冷たい反応かと思ったよ」

「失礼ね。私だって天使なんだから。人並みに……いや、人並み以上の慈悲は持ってるつもりよ。それが例え、亜人だとしてもね」

「……悪かったよ」


 僕は悪びれてリリスに謝ると、足早に、電話の親機で将大に連絡する。


「もしもし、将大か? 実はな……」


 僕の話を聞くと、将大はすっかり興奮してしまった。


「信じられねえ、人権侵害だ! 章、切るぞ!」

「おい、ちょっと待――」


 一方的に電話を切られ、ただ呆然と立ち尽くす僕。そして数秒後にハッとして、外に出る準備を始めた。


「どうしたの章、急いで身支度なんかしちゃって」


 リリスはまだ眠そうにしている。

 事情を知らないだけに、かなり悠長だ。


「あいつは怒ると手が付けられないんだ! 支部局に殴り込むかもしれない! 止めないと!」

「あら、殴り込みなら参加すればいいじゃない」

「何能天気なこと言ってるんだ! 本当に殴ったら駄目だろ!」

「そういうことなの!?」

「お前も早く支度しろ! 間に合わなくなっても知らんぞ!」

「はいはい! わかったわよ」


 僕らは想定外の状況にどぎまぎしながら、いそいそと支度して、ミスティック・リア支部局へと向かった。


 その後支部局に着くと、『礼拝堂』から中に入った。

 さて、着いたはいいものの、将大がどこに居るのかさっぱり検討がつかない。


「どうするの?」

「探すしかないな……」


 僕は溜息をついて、支部局内を探索し始めようと洋館に足を踏み入れた。すると、なんと洋館の内部から誰かの怒声が聞こえた。


「行ってみよう」


 僕らは耳を澄ませながら、声元を辿り始めた。


「ここから聞こえてくるな」


 着いたのは二階中央のこじんまりとした小部屋だった。『支部長室』とプレートが掛けられている。


「大丈夫なのか? こんなところ入って」

「でも、入るしかないでしょうね」

「……仕方ないよな」


 僕は扉のノブに手を掛けると――


「すぅー……はぁー……」


 ――深呼吸をしてからそれを回し、中へと入った。


「だから! こんな非人道的なことして恥ずかしくないのかって言ってるんだ!」


 彼の怒声は外に漏れていたものの数倍のボリュームと迫力があった。


「落ち着いて下さい、諫武様」

「落ち着いていられるかよ!」


 賀茂(かもの)功栄(こうえい)に怒鳴りつける将大を、麻夜さんがなだめている。


「だから、あちらの内部情報を知らないことには、我々としても作戦の立てようが……」

「御託はいいんだよ! やり方っていうもんがあるだろ!」

「やれやれ、これでは話が平行線だ。おい、今入ってきたそこの君。章君、だったか? 何か言ってやってくれないかね」

「…………」


 白羽の矢が立った僕は、ゆっくりと将大の元へと歩いていき――


「アッキー、お前……」


 ――通り過ぎて、賀茂功栄と対峙した。


「何か、文句でもあるのかね」

「……僕は、ミスティック・リアを離脱します。あなた方の実験や竜人(ノガルドティアン)の捕獲には、もう協力しません」

「なんだと」

「ふっ」


 賀茂功栄の不愉快そうな声色と、レシムさんの愉快げな声色が、重なった。


「言っただろ? 抜けることになるって」


 僕はニヤリとした顔を将大に向ける。


「俺も離脱させてもらう。こんな組織、協力出来ねえ」

「話は聞かせて貰ったわ」


 突然発せられた声を受けて振り返ると、文先輩が入り口のドア付近で、壁に寄りかかっている。


「でも章君、ミスティック・リアから離脱したら能力の開発実験はもう出来ないのよ? それでもいいの?」

「文さん、それは――」

「将大、少し黙っておれ」


 レシムさんが将大を制する。


「構いません」

「なら決定ね」


 文先輩が堂々と賀茂功栄の前に躍り出る。


「私達四人は、ミスティック・リアから離脱し、以後の協力を一切致しません。引き止めたければ、竜人(ノガルドティアン)に対する扱いを改めて下さい」

「四人?」

「こ、ここに居るよ?」


 気が付かなかったが、詩織は先程から文先輩の後ろに佇んでいたらしい。


「……それは、出来ない話だ」


 その場に居る全員の顔を、険しげな顔で次々に睨み付ける賀茂功栄。それでも僕らの決意は、揺らがなかった。


「まぁ、いい。抜けるなら勝手にすればいい。こちらにはまだ魔法士の麻夜が残っている。せいぜい、後悔しないことだな」


 吐き捨てると、早く部屋から出ていけと言わんばかりに、手をたなびかせる功栄。


「さようなら」


 僕は背を向けたまま、麻夜さんに最後の別れの挨拶をした。

 すると麻夜さんは僕を小走りで追いかけ、手を掴んだかと思うと、何かを渡してきた。

 “それ”を渡すと、彼女は走り去っていった。


「麻夜さん……?」


 手の中を見ると、それは和紙で作られた封筒だった。

 僕はそれをコートのポケットに入れると、文先輩たちを追いかけた。

 こうして僕ら四人は、ミスティック・リアから去っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ