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◆第二十七話『再度の過失』

 今日も僕らは、能力引き上げ実験をしに、ミスティック・リア支部局を訪れた。麻夜さんの案内で、一つの会議室に通される僕ら。そこは相変わらず壁から天井から床に至るまで真っ白で、骨のように無機質な一室だった。


 入ってすぐに現れたのは、白衣を着た眼鏡の中年男性。彼の髪は薄く、その毛髪は白髪が混じっていた。


「よぉぉおうこそおいで下さいました!」


 誰だこの人……? とその場の誰もが思ったことだろう。かく言う僕も、その一人だった。


「あの……あなたは……?」


 最初に口を開いたのは(あや)先輩だった。


「ああ、これは失礼致しました、お嬢さん! 私の名前はネクロと言います。ミスティック・リア専属の研究員です」


 今どきお嬢さんって。随分個性的な人だな。


 その人が現れて、その場の雰囲気が何とも言えない感じになってきた。雰囲気が目に見えるものなら、恐らく部屋の中の光景はぐにゃりと歪んで見えたことだろう。


「今回あなた達を招集したのは他でもありません、『時に取り残された空間』への接続実験を、再び行う為です」


 彼の言葉に、電撃が走ったような衝撃を覚える僕ら。


「待って、あんな危険なこと、またやるつもりなの!?」


 文先輩の言葉に、彼は少しも動じなかった。


「未知なる空間の研究、その結果として、我々は異世界の入口に到達出来るのかもしれないのです! それならば、どんな犠牲も厭わない! それが、我々研究者の共通見解です。……もちろん、ミスティック・リアが戦闘に介入出来る可能性があるという尤もな言い分も用意されていますがね」


 腕を広げ、オーバーとも言えるリアクションを取るネクロ。マッドサイエンティストとも呼べる彼の言い分に、僕らは完全に引いていた。


「そして、より実戦に近い方法で戦闘を経験させるのが目的でもあるのです」


 いつの間にか麻夜さんが部屋の中に入り込んでいた。


「私どもが時に取り残された空間にご案内しますので、皆様方は前回のように、魔獣をお倒しになって下さい」


 あまりに勝手な言い分に、僕らは唖然とした。


「それでは、また観察室までご案内します」


 *


 観察室に着き、ガラス窓から実験室を覗くと、頭や、身体全体に、装置が取り付けられている竜人の姿が見えた。


「結局、反論する間もなく流されちゃったな……」


 将大は声のトーンも低く、落ち込み気味だ。恐らく、何の反抗も出来ない自分に失望しているのだろう。


「俺、麻夜さんやこの組織のこと、好きになれない」


 正直、同感だった。


「なぁ、もし俺だけがこの組織から抜け出したとする。それでもアッキーは、俺の仲間で居てくれるか?」

「その時は一緒に抜けることになるかもな」


 将大は目を大きくすると、やがて表情を曇らせながらも、その口元を緩ませた。


「それでは、実験を開始致します」


 サイレンが実験室、観察室に鳴り響く。詩織の様子を見ると、今度は気丈に振る舞っているようで、僕は軽く安心を覚えた。


 竜人の身体から赤いフィールドが展開されていく。そして僕らは、時に取り残された空間に突入した。魔導書形態になるリリス達守護天使。僕らは慣れた手つきで彼女らをキャッチした。将大だけ、レシムさんを小型化する。


「実験室内に魔獣の発生を確認! 即座に対処せよ!」

「くっそ、こうなるってわかってるなら最初から実験室に入れろよ……!」


 急いで実験室に駆け付けようとするも、麻夜さんに肩を掴まれる。


「なんですか!?」


 なんと次の瞬間、視界全体がまるごと一気に変化した。数秒、呆然とする僕。


「こちらの方が早いと思いまして」


 どうやら、彼女の能力で瞬間移動したらしい。作法を見ると、将大も転移してきたらしい。


「ありがとうございます」

「……どうも」


 ぶっきらぼうに社交辞令を述べる僕ら。


「アッキー、俺が時間稼ぎをするから、でかいの一発ぶちこんでやってくれ!」

「了解!」

硬化の拳(ストレンセン)!」


 将大の拳が強く光り始める。どうやら肉体強化の魔法のようだ。


「うおらぁぁああ!」


 彼が魔獣に向かったことを見届けると、僕は右手の掌を“そいつ”に向けて翳すようにして構えた。


「我が血潮は心臓を巡り、全身を巡り、脳髄を巡れり。満たされよ器、満たされよ霊魂、満たされよ気魂(きこん)。大地に巣食う精霊どもよ、生の力を(うぬ)らに与う。与えし活力を以って我が脅威を圧倒せよ。焼き尽さん、火炎の右手ストリーミングフレイム!」


 特大の火炎流が魔獣へと降り注がれる。


「危ないっ!」


 リリスが叫びをあげる。将大がまだ避難していない!


結界(スピリチュアルバリア)!」


 駆け付けた詩織が将大を結界で囲む! 間一髪のところで将大は助かった。


「あっぶねえな、殺す気かアホ!」

「悪い、悪い! ほんと悪かった! 今度焼肉奢るから!」

「焼肉? ……仕方ないな!」


 いくら自ら提案したとはいえ、なんという単純なやつだと思わず呆れた。


「でもこれで元の世界に戻れる筈よね。良かった!」


 文先輩は安堵の溜息をついた。


「……あら?」


 麻夜さんが何やら驚愕している。


「No.6が逃げ出している……? 一体誰が……」


 再び鳴り響く本日二回目のサイレン。


「研究棟内に二体の竜人(ノガルドティアン)の存在を確認! また複数の大型魔獣及び大量の小型魔獣が出現中! 配備された研究員は即座に避難せよ!」

「何が……何が起こっているの……!?」


 珍しく困惑している麻夜さんに、僕は意地悪くも、良い意味で、少しだけ人間臭さを感じた。

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