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◆第二十四話『彼方の葛藤』

「なんだか、眠れないな……」


 夜中の二時に目を覚ました僕は、なかなか再び寝付けずに困っていた。

 僕はふと昨日の事件を思い出し、家のベランダに出て、思いに耽ることにした。


 竜人(ノガルドティアン)がただの敵としてしか理解しようとしなかったけど、彼らにだって家族は居る。彼らだって、同じ血のかよった人間なのだ。昨日の実験のことを思い出すと、彼らを同じ人間として扱っていないように思える。恐らく、正義感の強い将大の方がこの感情は強い。


 彼らには彼らなりの信念があって、それで戦争を起こしてる。僕らには、彼らのような、強い信念や、崇拝や、信仰心があるわけじゃない。


 確かに、人間が滅ぼされることとか、魂が別世界に連れ去られるようなことは、許していいことではない。


 それでも、彼らには彼らなりの正義があって、僕らには僕らなりの戦う理由や正義がある。でもその二つがぶつかり合うようなやり方は、果たして正しいのだろうか……?


 だが、魂が連れ去られることは、自分の身にいつ(およ)んでもおかしくないことだ。こんな中途半端な気持ちで戦闘に挑んで、こちらがやられていてはどうしようもない。


 やるか、やられるか。

 悲しい話だけど、争いというものはこういうものなのかもしれない。


 竜人(ノガルドティアン)が連れ去った魂を救済するには、彼らの魂を消滅させて、呼び戻すしかない……リリスの言葉だ。


 竜人(ノガルドティアン)と人間の魂、天秤にかけるとすれば後者を選ぶのが、同じ人間として当たり前だろう。


 しかし人間にも悪者は少なからず存在するし、恐らくそれは竜人(ノガルドティアン)でも同じことだろう。


 平和的に解決出来たらそれに越したことはないのだろうが、それで済めば最初から戦争なんて起こっていない。


 それでも、問いたい。

 本当に、戦うことは正しいことなのだろうか……?


「章、こんな時間に起きて、どうかしたの?」


 リリスがベランダに上がってきた。


竜人(ノガルドティアン)と戦うことが正しいことなのか、よくわからなくなってきたんだ」


 僕の言葉に、彼女は数秒考えた後、応答した。


「……章、あなた、正義感は強い方?」


 突飛すぎるその質問に、しばらく僕は言葉を失った。


「いきなり、なんだ?」

「いいから、答えて」


 十数秒思考し、答える僕。


「強い方だと思う」


 リリスは、僕の言葉に、口元を緩ませた。


「そういうと思ったわ。幻想戦争は、正義感の強い人間が、魔法士として昇華して戦うものなの。あなたは、詩織ちゃんの魂が連れ去られたら取り返したいと思うでしょう?」

「当たり前だ」

「将大や文なら?」

「それでも取り返したいと思うだろうさ」

「あなたは当事者の代わりにそれをやっているだけなの。器である身体に魂が入っていないと、人は眠ったままの植物人間になってしまう。あなたが取り返した魂は、ちゃんと元の身体に戻っているのよ」

「そう……だったのか……?」


 僕は今までに救ってきた霊魂たちのことを思い出し、自分のやったことに意味があったのだと、ただ、感動した。


「あなたのお友達、特に同じペアの詩織ちゃんと守るために、そして詩織ちゃんのような魂を救済するためにも、あなたは戦うべきよ」


 夜空を眺めていると、流星が横切っていくのが目に入った。


「願いを叶える為にも、ね」


 リリスも見ていたようだ。


「願いを、叶える、か。すっかり頭から抜けてた」

「恐らくあなたはこれから先、戦闘が怖くなることも少なからずあるでしょう。その時は、叶えるべき願いのことを思い出して。叶ちゃんのことを、思い出してあげて」

「でも、死者蘇生は不可能なんだろう?」


 僕の言葉に、リリスは口をへの字にした。


「死者蘇生は不可能かもしれない。でも、時間を巻き戻すことなら、出来なくもないかもしれない」

「そんなことが、可能なのか……?」

「章が救った沢山の霊魂の持つ、守護霊の天界エネルギーが味方すれば、可能であることは間違いないわ。ただし、あなたはその為にこれからも戦い続ける必要があるの。だから、見失わないで。あなたには、戦うための理由がある。それは、誰よりも強いものかもしれない。あなたが行っていることは、間違いなく正しいことよ。だけど……」


 リリスは口ごもり、その表情を曇らせた。


「ミスティック・リアのことか?」


 彼女は頷くと、続けた。


「彼らは実益を出す為に、実験を行っているとしか思えない。彼らが道を踏み外すような実験を行うのは、そう近くない将来の話だと思うの。だから私は、彼らが好きになれない」


 僕はリリスの意見に概ね賛成だった。

 ついた溜息が、白く曇る。


「あまり行き過ぎているようであれば、その時点でミスティック・リアから離れよう。それが、正しい選択だと思うから」


 お互いに顔を見て、神妙な顔で強く頷き合う僕ら。二人で見上げた澄んだ夜空には、沢山の星たちが揺らめき輝いていた。

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