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◆第二十話『承諾の疑問』

 帰宅後、僕ら魔法士とその守護天使たち総勢八人は、僕の部屋に全員集合して、ミスティック・リアの承諾を飲むかどうかについて話し合うことになった。


「とりあえず、まずは自己紹介から始めましょう。とりあえず、私から」


 口火を切ったのはリリスだった。仕切り屋といえば、彼女だ。


「私の名前はリリス、この章の守護天使よ。それで、この子が章の幼なじみの詩織、そしてその隣に居るのがその守護天使テレサ、かつて私の同級生だったの」


 リリスがこちらの陣営を全員紹介し終えると、文先輩側の陣営の紹介になった。


「私の名前は幻月(まどつき)(あや)、一度会ったわねリリスさん。あの時は喧嘩しちゃったけど、お互いに水に流しましょう」


 リリスに向かって手を差し出す文先輩。

 窓際から差し込んだ夕日が、背後から彼女たちを照らした。


「私も悪かったわ。あなたのことは、嫌いじゃないから」


 熱く握手を交わす二人。

 リリスが二人居るみたいだと思い、つい頬が緩む僕。なんとなく、この二人は似ているのだ。


 将大とその守護天使はこの状況を飲み込めていなかったようなので、僕は軽く事情を説明した。


「それじゃあ、次は諫武君達の紹介になるわね」

「ちょ、ちょっと待ってよ、あややん!」


 文先輩の守護天使が、冷や汗をかきながら文先輩に突っ込みを入れている。


「あら? まだ居たのね、お調子者が」

「なんで僕のこと邪険に扱うのさ!」

「普段から私のこと侮辱するからよ」

「ちょっとからかうくらいじゃないか!」


 突如として始まった喧嘩に置いていかれる周囲の僕ら。


「いいから早く自己紹介しなさいよ」

「全く仕方ないなぁ……」


 文先輩の守護天使は、その高い声で咳払いをすると、自己紹介を始めた。

 見た目の様相を挙げておくと、目の色は黄色く細目。ファントムマスクを着用している。髪は赤く、男性にしては長めで、狐顔。どこか妖しい雰囲気を持つ。燕尾服を着ているが、シルクハットは被っていない。


「僕の名前は、レン=ウォルックサム・ダ・ヘヴン! 趣味はマジックと人をからかうことだよ~!☆」


 文先輩が顔を手で覆っている。異様に個性的なその態度と自己紹介は、周りの人物全員を一歩引かせるに値した。

 特にリリスの表情が傑作で、これ以上ないくらいに口を引き攣らせていた。将大はこの状況を受けて笑いをこらえている。他は僕を含めて全員が真顔だった。


「こ、個性的な人だね……」


 意外にも沈黙を破ったのは詩織だった。

 それに答えるは、文先輩。


「そ、そうでしょう……?」

「~~っく、がははははは!」


 とうとう将大が大声で笑い出した。釣られて笑う将大の守護天使と僕。文先輩の顔が赤くなる。


「ちょ、ちょっと、文さんがかわいそうだよ!」

「いや、だってさ!」

「ッ! フフフフフッ!」


 仕舞いにはテレサさんまでが笑い出してしまった。

 ただひたすらレンに冷たい視線を送るリリス、かわいそうだと主張する詩織、渦中の中に居る文さんを除いて、その場全体が笑いに包まれた。


 その後、しばらくして笑いが収まると、将大の守護天使の方が話し出した。


「では、我等の紹介といこうか。我の名前は、レシム=エクナルドゥーネ・ダ・ヘヴン。生前は槍の使い方に長けていた。歳若き頃に大型の番犬と格闘して、仕舞いには殺してしまったことがある」


 こちらの風貌はというと、髪は無く、スキンヘッドをしている。目は鋭く、色は通常のブラウンで、片目が潰れている。甚平を着ていて、雰囲気はまるで刑事かヤクザのようである。


「俺は諫武(いさたけ)将大(しょうだい)だ。アッキー……いや、章とは小学生の頃に、よく一緒に遊んだ。得意なのは柔道だ」


 こうして全員が自己紹介をし終えると、場が沈黙し、その場の全員が司会者と化しているリリスの言葉を待った。


「……さて、これで全員分の自己紹介が済んだ訳だから、閑話休題といきましょう。まず先に述べさせて貰うけど、私はミスティック・リアの要求を飲むことに賛成よ」

「我も賛成する」


 レシムさんがリリスの言葉に続いて、賛成を表明した。彼の声は異様に低く、独特のだみ声をしている。


「僕は反対かなぁ~。流石に捕らえたら彼らが何されるかわからないからね~!☆」

「私も反対です。あまり人道的ではありません」

「やはりメリットとデメリットを考えるべきだと私は――」

「ちょ、ちょっと、勝手に話を進めないでよ!」


 完全に守護天使同士の話し合いとなっていることに、文先輩は疑問を呈した。


「申し訳ありません、文。あなたの言い分をどうぞ」


 テレサさんが文先輩の言葉を拾う形になった。


「私は反対よ。例え竜人(ノガルドティアン)であろうと、人道的な扱いはすべきだと思うから」

「僕と同意見だね~☆」

「ちっ」


 レンの言葉を受けて、文先輩は不満そうに舌打ちをした。 


「あれ~? なんで舌打ちするのかな~?」


 レンは冷や汗をかいている。


「ならばレンのペアはミスティック・リアの援助を受けず、個人で能力を鍛えれば良かろう。ところで、将大はどうなのだ」


 絶賛欠伸(あくび)中の将大に話を振るレシムさん。


「俺か? 俺はレシムの意見に同調するわ。レシムは俺より頭良いだろ?」

「そういえば貴様はそういう奴だったな……」


 レシムさんは溜息をついた。


「ところで、章はどうなのよ?」

「あなたもどうなのです、詩織」


 初めて話を振られ、一瞬硬直する僕ら。


「僕はリリスの意見に概ね賛成。ミスティック・リアで訓練を受けられるのがメリット、竜人を捕まえて引き渡す苦労がデメリットだとしたら、メリットの方が大きいだろう」

「わ、私は章君の意見に従うよ」


 人が多いせいか、詩織は若干おどおどしながら応えた。


「なら、こういうことにしましょう。参加ペアのみが、ミスティック・リアの支部に集合する。考える時間はたっぷりあるわ。それぞれで考えて、納得した答えを出しましょう」


 リリスの言葉を皮切りに、会談はなし崩し的に終了した。

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