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◆第十八話『秘密の手紙』

 小鳥のさえずりで目を覚まし、目を開ける僕。カーテンの隙間からは、冬の朝日が差し込んできていた。僕は窓を開けると、朝の爽快な空気を吸い込んで、改めて目を醒ました。


 窓を閉めると、階下に降り、姉が帰ったことを確認する。炊飯器のお米が減っていたので、恐らく朝食をとってから出たのだろう。居間の時計を見ると、既に短針が十時をとうに回っていた。


 そして朝食を取り、郵便入れの確認に行く。部屋着のままだったので、外に出ると、刺すような寒さが身体を襲った。入っていた郵便物の中身は確認せずに、それらを抱えてそそくさと玄関へとんぼ返りする僕。


 リビングに入り、新聞やその他の郵便物を机の上に置くと、その隙間から和紙で作られた黒い封筒が滑り落ちた。差出人を確認すると、『ミスティック・リア 宮本支部』と書かれている。そしてその怪しげな様相とは裏腹に、丁寧にも仔細な住所が載せられていた。不審に思い、即座に中身を確認する僕。


「『寒気厳しき折から、貴殿におかれましては、一段とご活躍のことと拝察いたしております。この度におかれましては、我々の組織に御招待致したいと思い、御連絡の方をさせて頂きました。私達は、あなた方魔法士の味方であり、支援機関であります。地図を同封させて頂くので、是非ともお越し頂きますよう、お願い申し上げます。』か……」


 よく見ると、封筒の中に、折り畳まれた地図が同封されていた。


「リリスに相談しておくか……」


 二階に上がり、僕の部屋で眠りについているリリスに話しかける。念のため、彼女はその存在が姉にバレないように、魔導書形態になり眠りについていた。


「リリス、起きてくれ」

「ん……?」


 リリスは実体形態に変化(へんげ)すると、体を伸ばして欠伸をした。


「おはよう章、今日も良い朝ね」

「リリス、そんなことより、この手紙を見てくれ」

「ん……?」


 半開きの目で僕から手紙を受け取り、目を通すリリス。

 閑静な住宅街の中、外から小鳥のさえずりがのどかに聞こえてくる。


「行ってみないことには始まらないわね」

「リリスは、この団体、ミスティック・リアを知っているのか?」

「いいえ、知らないわ」


 素っ頓狂な応えに、気勢を削がれる僕。


「危険じゃないか……? もし竜人(ノガルドティアン)の罠だったら……」

「そうね。テレサ達にも相談しましょう。恐らく、同じ手紙が届いている筈だわ」

「そうしよう」


 僕はリリスに向かって、大きく頷いた。


 *


 その後、身支度を調え、詩織の家のインターホンを押す。


「はい」


 詩織本人が出てきた。部屋着でないところを見ると、彼女はとうに起きていたらしい。


「詩織、この手紙……」


 詩織に見えるように手紙をちらつかせる。


「アキ君のところにも届いてたんだね、やっぱり。上がって」

「お邪魔します」


 そのまま階段を上がり、部屋に通される僕とリリス。


「そろそろ来る頃だと思っていました」


 テレサさんはこう言うと、魔導書形態から実体形態に変化(へんげ)した。


 トレンチコートを脱ぎ、それを畳むと、適当なところに置く僕。

 ふと、部屋の中心にある小さなテーブルに、こじんまりと置いてある和紙の手紙を見付けた。


「これ、流石に怪しいと思うんだけど」


 自分のところに送られてきたものと同じ内容、様相の手紙に目を向けながら、詩織に話しかける。


「私もそう思う。テレサ達はこの『ミスティック・リア』っていう人たちのこと、知ってるの?」

「リリスが知らないらしいから、多分テレサさんも知らないと思うよ」

「いえ、知っていますよ」

「「「!?」」」


 テレサさんを除く全員が、驚嘆して顔を見合わせた。


「テレサ、何故あなただけが知っているの?」

「そう警戒しないで下さい、リリス」


 安心させようとしているのか、穏やかな口調で語りかけるテレサさん。


「魔法士を統括する団体があるのではないかと、前々から天界で調査していたのです。詳しいことはわかりませんが、ミスティック・リアは、元を辿ると平安時代中期に作られた、陰陽師の連合です。元の名前は、『清明流(まつりごと)()黒衣(くろご)』。今は魔術師や魔法士を統括しているようですが、ただの研究機関です。他の魔法士にも会えるかもしれませんし、一度尋ねてみるのもいいと思いますよ」


 テレサさんは一気呵成に見解を言い終えると、場は沈黙した。


「テレサが言うなら、問題ないでしょう」

「私も、テレサの言葉を信じる」

「…………」


 僕だけが、その場で賛成していないようだった。研究機関という体裁が、どうも怪しげに見えて仕方なかったのだ。


「仮に攻撃を仕掛けられても、反撃すればいいだけですし」


 テレサさんらしからぬ大胆な発言に、僕は少々驚いた。


「……テレサさんって、意外と恐いもの知らずですね。ちょっと、意外でした」

「そうですか? 私は言う時には言う女ですよ? ふふふ」


 テレサさんは口に手を当てながら笑みを零した。そんな彼女の不敵な態度にどこか安心感を覚えた僕は、意見を賛成に転じた。


「テレサさんの言う通りだ。行ってみよう」

「全員、賛成ね」


 リリスの言葉に、その場の全員が頷いた。

 こうして僕達は、ミスティック・リアを訪れることになった。


 僕らは隣町まで足を伸ばし、地図を見ながら『ミスティック・リア』の本部の場所を捜索する。

 そして時々迷いながらも、なんとかそこに辿り着いた。

 それは――喩えるなら教会のような――物々しい西洋風の建物だった。


「これ、入るのかなり勇気要らないか……?」

「ここまで来てしまったのです、入るしかありません」

「そうだよ、苦労して辿り着いたんだから早速入ろうよ」

「…………」


 リリスは無言で引いている。

 半ば二人に押されるようにして中に入る僕ら。


 室内は中心に赤い絨毯の引かれた縦長の洋室だった。礼拝堂のような構造で、中には木造の長椅子がいくつも並べられており、前方には舞台と教壇がある。ただし、教会ではないので、教壇の後ろにステンドグラスはない。僕はこの部屋を、それっぽいので『礼拝堂』と呼ぶことにした。


 長椅子には、一番前の席に、既に四人の先客が座していた。また、よく見ると、後ろ姿に見覚えがある女性が右の一番前方の座席に一人。


「文先輩?」

「章君!」


 文さんは目を丸くしてこちらを見つめた。


「魔法士だったんですか!?」

「それはこっちの台詞よ!」

「アッキー!」


 今度は低く重量感のある声が左から聞こえてきた。


「お前……もしかして、将大? でかくなったなぁ!」


 諫武(いさたけ)将大(しょうだい)。小学校時代のクラスメイトで、家が道場であることから、古武術を三歳の頃から修めていた。当時からやたら身体が大きく、特に空手が強かった。その腕はというと、別々の中学であったにも関わらず、うちの中学に名が轟いてくるほどの実力。都大会で優勝したらしかった。年賀状の交換である程度の交流はあったが、実際に会うのは約四年ぶりだ。


「お前は相変わらず小柄だな、アッキー」

「うるせえよ!」


 こちらが負けじと前となんら変わらない態度で返すと、僕らは互いに笑い合った。

 依然と変わることのない態度に、安心感を覚える。将大は拘りのウルフカットと、トレードマークの赤シャツを除いて、当時と何も変わってはいなかった。


「しかしまさかこんなところで会うとはな!」

「不思議な縁だよな」


 ……何故か背後から将大に対する殺気を感じるのだが、気のせいということにしておこう。


 将大についてざっくりと説明すると、彼はおおらかな性格で、鈍感だが空気は読めるよくわけのわからない奴である。多分野生の直感的なものがあるのだろう。それから、男にモテて友達は多いが、女子には全くモテない。


 同窓会のような空気になる中、突然開かれていた観音開きのドアが独りでに閉められる。すると、奥の部屋から黄色と紫の袈裟を着た荘厳な人物が現れた。


「こんにちは。ミスティック・リアへようこそ」


 その男性は、厳ついだみ声をしていた。

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