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◇幕間劇十五『最後の審判Ⅰ』(将大視点)

「おや、私のご相手はあなたですか?」


 俺が向かった先に待ち受けていたのは、長い槍を持ったショートヘアの竜人だった。


「そうだ。俺は諫武将大。正々堂々と戦うことを、ここに誓う」


 目の前の竜人は俺の言葉を嗤い捨てる。


「如何にも筋肉馬鹿の権化のような人間ですね。まぁいいでしょう。こちらも小ずるい手を使うほど苦戦するとは思っていませんから。結果的にではありますが、正々堂々戦おうじゃありませんか」


 ……気に入らねえ。癇に障る野郎だ。


 奴のその宣言の後、俺はそいつに何かの力──おそらく魔力──が集まっているのを感じ取った。


強制拘束フォースド・タイイング!」


 奴から何か影のようなものが突然襲い掛かってくる。


 なんてスピードだ! ……避けられねえ!


 俺は咄嗟に俺は腕で頭部を守った。


 …………?

 何も起こらない。


 俺は目を開けると、何故か目が閉じていた。


 …………?

 もう一度目を開ける。

 ……辺りは真っ暗だ。


「なんだ!? 何が起こってやがる!?」


 正直意味が分からなくて狼狽を隠す余裕すら無かった。


「ほう、愚者は分かりやすくていいですね。どうやら“視界”のようだ。これはアタリですねえ。さて、そのままだと面倒なので行かせて貰いますよ」


 奴の気配が近付いてくる……!


「将大! 硬化しろ!」


 爺さんが叫ぶ。

 俺は咄嗟に自動術式(オートパイロット)を使い、奴の攻撃を腕で防御した。

 魔法に集中できなかったので、腕に軽傷を負ってしまった。


「そう簡単には行きませんか……なら──」


 くそっ、動きが見えねえ……!

 気配で感じ取るしかねえ!


 俺は屈んで敵の頭部への攻撃を間一髪で避ける。

 すると奴は間髪入れずに薙ぎ払った。

 動きが読めたので腹に集中して防御したが、右腹に鈍痛が残る。

 俺は隙を見て、奴から距離を取ることに成功した。


 ……接近戦はまずい。一度距離を置くしかねえか。


「将大、感覚を研ぎ澄ませ。慣れていないなら詠唱してもいい。お前には身体だけじゃない、魔法がある」


 そうか、五感強化能力があったじゃねえか……!


「大地に蔓延る精霊共よ、我が身体(しんたい)を覆い、その六根により、六境の力を増大させよ、五感強化(フィールストレンセン)!」


 俺は五感強化能力を使い、全ての能力をまんべんなく使って、視界を補うことにした。


「随分と分かりやすい真似をしてくれますね。ですが視界が無いというデメリットに耐えられますか!?」


 奴は次々と突きを繰り出してくる。

 まずいな、後手後手か。

 身体の硬化能力で、多少奴の攻撃を食らっても戦いに支障はねえが、これじゃ体力が削がれるだけで奴を倒すことなんて出来ねえ。


 相手方の攻撃の速さを見てもわかる。

 こいつはかなりの手練れだ。

 一つ一つの突きが洗練されていて、動きに無駄がねえ。


 ……いや、この防戦は捉え方によっては好機なんじゃねえか?

 幸い、視界を奪われたお陰で妙に耳が冴えてやがる。

 このまま戦っていればこの状態に慣れる自信はある。

 ……一か八か、少し続けてみるか。


 奴の鋭い突きを、勘で硬化した腕を使い防いでいく。


 ……しかし、奴はなんで致命傷を与えようとして来ねえんだ……?


 …………。


 もしかしたら、奴はこちらの体力を削ぐことが元から目的なのかもしれねえ。

 最初の一発を出して、こちらの集中力が途切れれば硬化が解けると踏んでるのか?


 ……舐めんな。そんなダサい真似するかよ。


 *


 数分後。


「もういいでしょう! 流石の私もうんざりしてきましたよ。このまま防戦一方になっていて勝てると思っているんですか!? ……ここまで私の攻撃を耐え続けたことは賛美しましょう。特別に大人しく降参してくれれば、記憶と能力を奪うだけで済ませてあげましょう。もう降参したらどうです?」


 奴の言葉に、つい笑いが込み上げてきた。


「仲間が命張って戦ってんのに、自分だけ助かるような真似するはずねえだろうが!」


 奴は俺の言葉を鼻で笑った。


「分かりました、死にたいならそれでいいでしょう。そのちっぽけなプライドを持ったことを後悔しながら息絶えなさい!」


 そう吐き捨てると、奴は今までにないスピードで攻撃を仕掛けてきた。

 だが、俺はそれをすべて避けつつ隙をついては奴に打撃を食らわせた。


「なっ……!」

「お前が俺の体力を削る作戦を取ったのは失敗だったな。その間に俺の五感は発達したんだよ!」

「そんなことあるわけが……それだけで槍の突きを避けられるはずがない!」

「ああ、俺だって意味わからねえよ。だけど今はお前の次の動きが手に取るようにわかる。試してみるか?」

「ふざけたことを!」


 奴は速さに加えて強さも増した連撃を食らわせてきたが、俺はそれをすべて避けてみせた。

 定期的にカウンターを行い、奴にもダメージを蓄積させていく。


 ……どれだけかかっただろうか。

 やがて決定的瞬間が訪れた。

 奴は自分が攻撃されることには慣れていないらしく、体力が削がれて体勢を崩しかけたのだ。


 今だ!

 俺は精一杯の硬化で奴の肋骨を砕いた。


「がはッ……!」


 奴は腹に致命傷を負い、俺は更に蹴りで奴を沈めることに成功した。


「終わった……か……」


 俺は視界が回復したことを確認し、その場で意識を失った。

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