表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

101/118

◆第八十二話『不思議な隣人Ⅰ』

「お嬢様が転校してきた……?」


 妙な噂を聞きつけたという於保多君に、僕は唐揚げを食べながら訝しげにそう返した。


「なんでこのタイミングなんだろうね……?」

「確かに……」


 詩織は不思議そうに首を傾げていた。


 将大のように新学期早々転校してくるならまだしも、転校から二日経った今なのはどうしてなんだろう。新年早々インフルエンザにでもかかってしばらく学校に来れなかったりしたんだろうか。


 僕と詩織のことを交互に見て、僕を少し遠い場所へ連れ出す於保多君。


「ど、どうしたんだよ」

「なんで幼馴染にもかかわらずほとんど会話を交わすことのなかった君たちの距離がこんなに近くなってるんだい? 冬休みに何かあっただろ!」


 大きく間違ってはいないが、於保多君が期待するようなものではないことは確かだ。


「それはまた今度話すよ。一度話を整理させてもらう」

「まぁ、友人として君がそういう関係を築くことはやぶさかでもないがね」


 やはり何か勘違いをしている。弁解しようと思ったところで、誰かが教室のドアを勢いよく開け放った。

 将大だった。

 彼は教室に入るや否や、僕に一直線に向かってきて、いきなり肩をがしっと掴んだ。


「な、なんだ……?」


 ざわざわと教室内がざわめき始める。

 そんな騒然とした中で、彼は周りを顧みることもなく、開口一番こう言った。


「隣のクラスにお嬢様が転校してきたらしいぞ!」

「それはさっき聞いたんだよ!!!」


 *


 どうしても気になるということで、僕と将大は転校生の様子を見に隣のクラスへ様子を見に行くことになった。


 だが、一つ問題があった。


「ギャラリーが多すぎて肝心の本人の姿が見えない……」


 スターか何かじゃあるまいし。まぁ確かに遊ぶところも限られる郊外のこの町じゃこういったイベントが大好きな奴は多いが、まさかここまでとは。


 偶然そのお嬢様の目がチラッと見えた瞬間だった。

 彼女は突然立ち上がった。


「…………?」


 なんだろう。何かあったのかな。


 そして彼女はギャラリーをかき分けて、こちらへと向かってきた。


 ……え? まさか僕? いや、将大かも。

 将大は武術の有段者として名を馳せているわけだし……。


 しかし彼女はそんな僕の予想とは裏腹に、僕の前にやって来ると、僕を穴が開くほど眺め回した。

 彼女のよく分からない行動に僕が頭の上に疑問符を浮かべていると、彼女は最初にこう言った。


「やっぱり! あなたで間違いありませんわ!」

「……え?」

「やっと見つけましたわ!」


 最初に言っておくが、僕には幼い頃に海外に転校した幼馴染も居ないし、何かのきっかけで偶然出会った金持ちのお嬢様を何かから助けだした覚えもない。

 彼女とは正真正銘の、赤の他人なのである。

 目の色は青色、雪のように白い肌をしており、青髪ショートで、毛先にパーマがかかっている。

 どう考えてもこんな目立つ人を忘れるとは思えない。


「えっと……君は?」

(わたくし)は燦鳥蒔苗と申しますの。お会いできて光栄ですわ」


 さらによく分からない。僕は成績はそこそこいいが何か大きなことを成し遂げたことは人生で一度も無い。


「ここじゃなんですし、屋上に向かいましょう!」

「え? ちょ、ちょっと……」


 彼女は僕の手を掴んでぐいぐいと引っ張っていく。かなりお転婆らしい。


「あなたもですわ! こちらへおいでなさい!」

「お、おう……」


 将大も? ってことはまさか……。


「あら、わたくしとしたことが、うっかりしてましたわ……。あと二人居る筈ですわね。全員集めてから参りましょう」


 文字通り、僕らはしばらくの間振り回されることになった。

 ……正直、教授回診でもさせられているかのような気分だった。

 こんな経験は後にも先にもこの時だけだった。


 やがて無事に詩織と文先輩を連れ出した僕らは、屋上へと向かった。


 *


 リリスが人避けの魔術を行うと、何故かギャラリーは目の前に僕らが居るのに見失ったかのような素振りを見せ、各々退散していった。


「……それで? この四人──いや、八人か──を集めたってことは君は魔法士なんだろう?」

「ご名答ですわ! 流石ですわね」

「そりゃこんな偶然が起こるはず無いからね。……それで、話というのは?」


 燦鳥は俯きがちになりながら、話し始めた。


「実はわたくし、ついこの前まで魔法士としての自覚を失っておりましたの」


 彼女の発言を聞き、僕の中に電撃が走った。


「じゃああなたは、私と同じ経験を……?」


 詩織の問いかけにこくりと頷く燦鳥。


「わたくしの場合は、わたくしだけではなくわたくしのパートナーまで殺されかけましたわ。それでも今わたくしが魔法士としての自覚を持てているのは、あなた達のお陰ですの」

「そういうことか……」

「それで記憶を取り戻したことを知った燦鳥さんは、猛スピードで転校の準備を進め今に至るのね?」

「ええ、その通りですわ」


 文先輩が軽い推察を行う。


「だけど記憶を取り戻してから猛スピードって言ったって、魔法士の記憶を取り戻すことを賀茂が約束したのは昨日の十六時過ぎだぞ……?」

「いえ、実は元から私の記憶がもし戻ったらその方の元へ転校する意志は示しておりましたの。それで手順書を作成して総動員した結果、今私が2011年1月12日(水)12時にここにおりますのよ」


 どうやらかなり猪突猛進で周りを顧みない性格らしい。


「それで……私から章様への申し出がございますの」

「申し出……?」


 リリスと詩織と文先輩が急に真顔になる。

 和やかだった雰囲気が急にピリピリし始めた。


「わたくしをあなた達の仲間に入れて頂けるかしら?」


 燦鳥の申し出を聞くやいなや三人の顔から緊張感が抜ける。

 一体どうしたって言うんだ。


「ええ、もちろんよ。歓迎するわ、蒔苗」

「ありがとうございますわ!」


 いや、そこ僕の台詞じゃないのか。

 まぁこんなリリスにも慣れてきたが。


「これでは今日から宮本支部の仲間に入れさせて戴きますわ! よろしくお願いしますの!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ