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◇幕間劇十二『世界の妨害Ⅱ』(麻夜視点)

「ぐ……うう……」


 私は外からの光で目が覚めた。


「そうか……もう朝……って光?」


 一瞬寝惚けかけたが、よく考えるとここは現世ではないのだ。

 この世界の様子を見る限り、この世界に燦々と輝く太陽がある訳がない。

 実際、窓を開けて外を見てみると、黒い太陽が空に浮かんでいる。


「直接見ると眩しい……強い紫外線のせいね……」


 身体のことを考えると、あまりこの世界に留まり続けるのは良くないかもしれない。


「目が覚めたか……麻夜……」


 傍らに置いておいた魔導書が独りでに話し出した。


「ええ、少し──いや、かなり不思議な感覚だわ。現世での感覚を失わないように早めに任務を終えたいものね。それとファーター、喋る魔導書なんて目立つだけだから外ではあまり口を開かないようにして頂きたいわ」

「ああ……いいだろう……」

「……さてと、下に降りて朝食でも頂こうかしら」


 部屋の扉を開け、ダイニングのある階下へと降りていく。

 美味しそうなスープの匂いが鼻をくすぐってきた。


 ──そういえば、ここの料理は人間にとって食べるに値するものなのかしら……?


 二つのテーブルは既に埋まっており、私は残る一つへと足を進めると、食事を運んでいる女性と目が合った。ここの娘さんだろうか。

 彼女はにこりと微笑むと、奥のキッチンへと向かい、こんがりと焼けたいくつかのパンとあたたかなスープを私に持ってきてくれた。


 匂いは普通だが……。少しだけ食べてみよう。


 スープを少量スプーンに含み、口元にゆっくりと持っていく。覚悟を決めて口に流し込むと、コーンの柔らかな甘さが舌の上に染み渡った。

 都合のいいことに、竜人と人間の味覚は似通っているらしい。


 私は宿屋で朝の腹ごしらえを済ませると、宿屋の女将さんにお礼を言い、神殿へと向かった。


 *


「右手に印、左手に印、成るは結びの術なり。今分かたれし右左合わさるる時まで、我が肉体は無音の命動と化す。気配消去(ディサピアランス)


 神殿の前に着くと、私は魔術を唱え、自分の存在を周りの人間が認知できないようにした。


「さて、問題はこの門をどうやって通るかね」


 まず正門の方はどう考えても突破するのは難しいだろう。変装するなり、破壊するなり、仮に何らかの形で突破できたとしても、後々のことを考えるとあまり正面突破はしたくない。出来ればこっそり侵入したいところだ。


 ふと正門の方へ目を向けると、警備兵が門の鍵を開け、要人らしき人を中に迎え入れるのが見えた。


 次は壁を超えて中に侵入することを考えた。

 神殿は丘の上に建っているので遠くからだと確認することが出来たが、いざ近くに行ってみると周りには50mほどの高さの城壁が築かれており、簡単には侵入出来ない。

 さらに一定の間をあけて警備兵が目を光らせており、目立つようなことをやればすぐにバレる。


「魔術も使えない……か」


 魔術を使って身体を透過させることも考えたが、魔術を跳ね返す魔術が敷かれているらしく、上手く中に入り込むことが出来なかった。

 さすが魔術の発展した異世界――Anneheg(アネヘーグ)。魔術対策は万全なわけか。


「なら、魔法ならどうかしら?」


 この状況下で詠唱をするような危ういことはしたくない。

 私は自動術式(オート・パイロット)を駆使して魔法を行使した。

 境界を統べし者よ……我は天界の認めらるる者なり……霊界の理に従い、我が霊体とその器を虚ろの空間へと転移させよ……空間変異、瞬間移動(テレポーテーション)


 …………。


「入れるはずないか……」


 天界由来の魔法がこの世界で行使できる方がおかしい。

 さて、そうなると……。


「一応あなたも試して貰っていい? ファーター」

「……喋らないんじゃ、無かったのか」

「気配は消してあるし、問題ないわ」

「ああ、では実体化させてもらう」


 手元の魔導書が眩い光に包まれ、その形姿が人型へと変化していく。やがて何の変哲もない魔導書は、巨漢の姿へと変身した。


時間加減タイムアジャスティング


 彼がそう唱えると、周りの景色の動くスピードが急激に遅くなる。

 空に目を向けると、飛んでいる鳥たちがゆっくりとした羽ばたきで飛行している。本来ならあの羽ばたき方だと地面に落ちてしまうだろう。詰まるところこれは──


「――成功したわね」

「ああ、大丈夫だな」

「でも、なぜ魔法はダメなのにあなたの覚醒能力アウェイキング・アビリティが使えたのかしら?」

覚醒能力アウェイキング・アビリティは魔法士が天界の力を借りる魔法と違って、守護天使そのものの能力だからだろう。魔素さえあればなんとかなる。条件は魔術と変わらない……」

「なるほどね──では、あなたの力を使いましょう。それしかないわ」


 *


 私は正門の前に行き、ファーターの魔法を行使した。


「最大火力で出来るわよね? あれだけ魔素に囲まれた森を通って来たんだから」

「お安い御用だ」


 彼は目を瞑って気を研ぎ澄まし、覚醒能力アウェイキング・アビリティを発動させた。

 私は相対的に超越したスピードで行動を行った。

 入口の警備兵が鍵を持っていることは確認済みなので、まずは警備兵から鍵を盗む。

 そして門の鍵を開け、中に堂々と侵入する。

 私だけ中に入ると門を閉じ、ファーターが鍵を元の場所に返す。

 そしてファーターが門の前で魔導書形態に変化して、私がそれを地面から回収する。

 魔導書形態に変化した時点でファーターの魔法は途切れるが、もうそこまで来れば問題ない。


 ――この間1.5秒だった。


 *


 中を探索しようとすると、ご丁寧に館内図が用意されていた。

 儀式の間、か。どう考えてもここだな。

 私はゆっくりと歩を進めた。


 *


 儀式の間の中に入ると、監視員が部屋の四隅に立っていた。

 あまり派手なことは出来ないわね……。


 床には半径25mと視認できる巨大な魔法陣と、横1m、縦3mほどの魔符が貼り出されており、その周りには青い灯火が揺らめいていた。


 さて、少し悪戯するとしましょう。バレない程度にね。


 私は、魔術を行使して魔法陣の模様を左右反転させた。


「ん?」


 監視員が魔法陣に目を向ける。


「どうした?」


 仲間の監視員が問いかける。


「いや、今魔法陣が少しおかしかったような……」

「ん?」


 もう一人の監視員が魔法陣に目を向ける。


「なんともないじゃないか」

「おかしいなぁ……」


 そのまま儀式の間に留まり続けるのも危険なので、妨害が成功したことを見届けると、私はそそくさとその場を後にした。

 こちらでの儀式の準備が整わない限り、恐らくあちら側の世界での儀式を遂行することは出来ないだろう。

 生贄の数も限られている。そう簡単に切り捨てられるほど安易に儀式は出来ない。

 さて、この手がいつまで続くかしらね──。

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