6話 線引き
赤い赤い神社の鳥居。その奥にそびえるようにして建っている本殿。
迫力だけはすごいな。圧倒されるというべきか。似つかわしい表現をボクは知らないな。ボクは語彙が足りないようだ。ちょっと残念だ。
ふと視線を感じた。敵意のある視線ではない。むしろ暖かくて懐かしい視線。強いて言うなら母親のような温もり。ボクは辺りを見回した。視線は割と近くから送られてきたものだったからさがせば見つかるだろう。それに、隠れているはずがない。確信に近いものがボクの中に存在していた。
神社の鳥居のところに唯花が立っていた。
「唯花! 」
ボクは唯花に駆け寄って飛びついた。
彼女は緑間 唯花。茶髪をいつも頭のところでお団子にしている可愛い女の子だ。可愛いだけでなく、性格もかなりいい方だったと思う。何より、料理はすごいものでレストラン並みにおいしい物が作れる。
ボクがこの村の中で親戚以外に唯一信用していたのが唯花だ。今後はどうなるか分からないけど信用に値する人だと思っている。
「そ、空様! 苦しゅうございます。も、もう少し緩めていただけませんか? 」
むう。九年振りだというのに反応が薄くはないだろうか。少しは歓迎してくれないかな。悔しいからもうしばらくぎゅうぎゅうすることにする。
それに冷たくないだろうか。こんなに固くなられると悲しくなる。九年も空いているのだから、少しは警戒した方がいいのかな。でも、もう少しだけ、ぎゅうぎゅうしておこう。うん。だって、抱き心地すごく気持ちいいんだもん。少しぐらい長くハグしても怒られないよね。
甘えん坊だと思われるぐらいが丁度いい。印象を植え付けておけばかなりボクが動きやすくなるはずだから。
そこまで警戒されたくないからね。特に巳高とかに。
「おいおい、俺様にはあの反応でこっちにはこれってずるくないか? 」
鬼次が言ってきた。
そろそろ頃合いかな。名残惜しいけど唯花から離れた。
少し申し訳なさそうな顔を作る。もちろん計算してやっている。
「ご、ごめん。つい、久しぶりで…。やっぱりダメ、だったかな? 」
こうすると、大抵の男子は赤くなって下を向く。何でかは知らないけど便利だから使っている。あるものは使わないともったいないからな。まあ、一種の言訳だ。
静まり返った鳥居の下で唯花が口を開いた。
「空様。ついたのなら婆様に挨拶しませんと」
やっぱりそうくるか。できることなら、もう少し後が良かったのだけれど。あの人は本当に厳しい。そう。ため息一つ許さないのだから。でも、ここまで来たらさっさと終わらせますか。
面白くもないお祖母さんの顔を9年ぶりに拝みに行くことになった。