4話 鬼
久しぶりに見る風景がずっと先まで続いていく。村の一番大きな中央を通る大路を歩いて行くとそのまま神社に行けたはずだ。ボクの記憶が正しければ。
大路の両端には等間隔で桜が植えられていかにもメインストリートらしくなっている。こういうのは嫌いじゃない。うん。テンションが地味に上がる。良かった。少しでも好きだと思える物があって。心が消えた訳ではないことに取りあえず安心する。にしても、本当にボクにしては弱気すぎるだろう。
「どうだよ? 少しは懐かしいとか思ってんだろうな? 」
んなこと言われてもね。龍牙よ、ボクがそんな感傷に浸ると思ってるのかい? キミの中では随分とボクが美化されているようだね。別にどうだっていいけれど。勝手なことを想像してると後で驚くはめになるよ? ボクに純粋なんて言葉は似あわないのだから。
「少しだけね」
まあ、あくまでボクは自分の心の内を見せる気はないけどね。だから、笑顔で答えてやるんだ。
自分で思う。ボクは歪んでいるって。素直に人に自分を見せたり、心の中を打ち明けたりしない。全て隠してしまう。それは癖というよりも最早ボクの決まり事になっている。そしてそれを楽しんでいるボクがいる。
なんでこんなにも歪んでいるのか、それは知らない。
ピンクの桜が花びらを散らしている。入学式にはまだ、残っているだろう。
「いた! おい、俺様を置いて行くとはどういう了見だ!? 」
それは、キミがうざいからじゃない? 素早く心の中で突っ込んでしまう。これも悪い癖だ。
ふと、隣に龍牙がいないことに気が付く。
振り返ったら、目つきの悪いお兄さんに捕まっていた。おいおい、やめてくれよ。ボクの荷物持ってんだからさ。時間がもったいないでしょうが。ボクは早く座りたいんだよ。
目つきの悪い奴が何かこっち来た。何なんだよ。
髪の毛赤いし、目が茶色だし、日焼けしてるし、体格もいいし、俺様発言だし、不良かな? 何にしても邪魔は排除するまでだけどね。あ、でも一応笑顔で様子は見ておかないとね。間違えだったら嫌だし。
なんて考えていたら、目つきの悪い人はもうすぐそこまで来ていた。
「姫さん、お久しぶり~。元気にしてた? 」
あ、キミのこと知ってるわ、ボク。
鬼次だ。ボクのことを姫さんと言って昔からボクの後をついてきていた。いつから俺様思考になったんだろう。それに鬼次は龍牙と仲が良かったと思うんだけど、何とも言えない微妙な空気が場を満たしている。
「失礼だけど、キミは赤尾 鬼次であっているんだよな? あんまり自信が無いんだが」
少し困ったような顔で確認をとる。鬼次だという確信はあったけれど、こういうやつの鼻を折るのは楽しい。
鬼次は一瞬、固まった。内心でガッツポーズを決める。この反応だと、キミはやっぱり鬼次なんだね。分かりやすい人だ。かなり笑えた。
鬼次には相当堪えたらしい。まだ、固まっている。龍牙は何故か分からないけど、全力で笑いをこらえていた。
「そ、そうだぞ。俺様は鬼の血を継ぐ三大家が一人! 鬼次様だぞ! 赤尾先輩と言え」
どうやら、復活したようだ。切り替えは早いらしい。
こいつらの動きには今後も注意しておくことにしよう。ニコニコしながら、内心でそう思った。
にしても、こいつら本当に必要ないんだけどなあ。三大家とか、めんどいだけだし。
それにボクは守るのはいいけど守られるのは好きじゃない。大概の奴らは、手に持っている日本刀でどうにかなる。
だから、龍の守りも鬼の守りもまだ、来ていない蛇の守りもいらないのに。