43話 後悔の行く先
ボクは笑い続ける。人間の信頼関係の脆さを目の当たりにした。キミ達はそんな軽い気持ちでお互いを信じてきてたんだ。
なるほどね、だったらキミ達もボクのことを簡単に裏切る訳だよ。納得するよ。にしても、この脆さは何処から来るんだろうね。お互い信じ合えてないってことじゃん。
「おい、空。何してんだよ? 」
いきなり鉄尾がボクを呼んだ。笑いが不思議なほどピタリと止まった。可笑しくて可笑しくてたまらなかったはずなのに。なんで、笑いが止まったんだろう?
今、鉄尾の顔を直視することが出来ない。
「何で嫌われてもしょうがない人格を作ろうとしてんだよ!? 」
嫌われてもしょうがない人格?
「ち、ちが、これは…」
反論しようとする。不意に視界が揺らいだ。目の奥が熱い。何かが目から落ちる。
「じゃあ、何で泣くんだよ…? 」
違う、違う。泣いてなんかないはずだよ。
だって、ボクは人じゃない。先祖返りだから、人間の心なんか持ってなくて、でも、人間として見られたくて…。
ボクは本当に人間の心を持ってなかったの? 人間性がなかったのはボク? 本当にそれだけでイジメられてたの?
何で泣くのかなんてボクが知りたい。分からないよ。何で、こんな気持ちになうのか、何で胸の奥が締まってるかのように苦しいのか。分からないんだ。
皆、憎い。お祖母さんだって気づいてくれないし、ボクのことを道具だって言った。お祖父さんだって、ボクが裏切り者になってから、暴言吐いてきた。皆、嘘に騙されてボクを殴ったり蹴ったり。だから、ボクは皆嫌いだ。いっそ殺してしまおう。嫌い嫌い、大嫌いだ!!
嫌いなはずなのに、言葉に出来ない。
それなのに、そう思っているはずなのに、何で涙がこぼれるのだろう? 汚れきっている心のはずなのに、どうしてキミ達を愛おしく思うんだろう? どうして、こんなにも離れがたく感じるんだろう?
分からない。分からないことが多すぎる。ボクもまた、キミ達と同じように発展途中なのかもしれない。
目を閉じれば浮かんでくるのは、皆と楽しく暮らした日々で。学園祭までが繰り返し繰り返し、浮かび上がる。どんなに消そうとしても、脳からその映像が削除されることはなかった。むしろ、日に日に何度も何度も思い描くようになっていた。周りの笑い声や笑顔が輝いた日々が自分の心の中で色褪せずに輝いて見えた。
それに気づくたび、自分に呆れたり情けない自分を憎んできた。
どうしようもない自分を消したくて作り上げようとした人格は完成する前に落ちて粉々になってしまった。鉄尾によって。
「ボクだって、どうしてか分からないよ!! ただ、もっと皆と仲良くしたかった!! 」
叫んでいた。今更なのに。もう遅いのに。
咳き込む。鉄の香りがせりあがってくるが何とか飲み干す。
大丈夫。本音を言ってしまったいまでも、ボクの決心は揺るいでいなかった。今なら、大丈夫だ。何があっても、止まらない。
________走りだした計画は止められない。




