42話 月明かりの下で
ボクは皆に集まってもらった。今から、色々な真実を知ってもらうために。
まずは、やっぱりボクの本性のお披露目といこうかな。だって、皆が驚く顔を見たいし。あ、でも、鉄尾は驚かないかもなあ。
「集まってくれてありがとう」
満面の笑顔で言う。反応は様々だ。面倒だの、寒いだの。皆、余裕ですねえ。
「なんて、言うと思った? 」
ボクは笑顔を止めた。いや、いつもの優しい笑みなんかではなく、冷たい笑顔になったと言うのがいいだろうか。キミ達はボクの冷ややかな笑顔を初めて見るのかな?
さっきまで、騒いでいたのが嘘みたいに静かになる。鉄尾とツッキーはそこまで驚いていない、か。でも、これほどまで、反応が楽しいと困っちゃうな。ボクはクスリと笑みをこぼす。楽しくてたまらない。バカみたいにこっちを見てるやつらが。ボクをイジメていた時と違う表情をするのが。
「ボクは裏切り者なんかじゃない。信じないだろうけど」
裏切り者じゃないと言った瞬間、鬼次が反論しようとしたから先手をうってやったら、黙ってしまった。なんだ。反論してくれていいのに。ただし、ボクが飽きない方法でね。それに、聞きなれた言葉が聞きたい訳じゃないし見慣れた表情が見たい訳でもない。ボクは絶望と後悔の顔が見たいんだ。
「ツッキー。録音機について、説明してもらえる? 」
協力してもらっている人にはいつもの顔で話しかける。その違いにまたもや、皆がたじろぐ。ツッキーまでもがびっくりしてる。
でも、さすがツッキー。ちゃんと説明を始めてくれた。
「録音機って編集できるの。さらに、編集したものは必ずあとが残るの。これが、空ちゃんの声を録音したものだけど出すところに出せば作られたものだって簡単にばれるよ」
ツッキーはさすがだな。博識だし、何より、驚くのはちゃっかり録音機を持ってきているところ。しかも、自分の指紋が付かないように、チャック袋の中にしまわれている。
録音機を見る。ボクは唯花に刺された挙句、ボクがカッターで自傷行為をして、それを他人のせいにしたように見せかけられた。唯花は演技上手でボクが悪いことしたかのように怯えている振りまでしたから皆あっけなく信じちゃったんだよね。
ボクの生活がこんな一つの機械に台無しにされるなんて想像してなかった。
世の中便利になったんだか、不便になったんだか分からないね、これじゃあ。
しばらくの間、再びの静寂が訪れる。いいねえ、高みの見物は楽で。
唯花にいたっては俯いて何も言わないし。何とか、言って見せてよ。まさか、もう降参しちゃうのかな? それは認めない。だって、ボクの生活を壊すきっかけになったんだから。
「唯花はそんなことしない!! 」
光鬼が叫んだ。
なるほど。血は繋がっていなくとも、兄弟な訳ですか。犯人に仕立てられそうな妹を守っている英雄ですか。うわー、いいお兄様だこと。血は繋がってないけどね。所詮は兄弟ごっこにしかならないのに。
見てると吐き気がするよ、本当に。
「本人に聞いてみたら? 何とか、言ってよ、唯花さん。あ、そんな勇気すらないのか。それとも、ボクがイジメられてからも、平気な顔して食事運んでこれたんだから人間性がなってないのかもね」
自分から出たとは思えないくらい冷ややかな声だった。人間性がなってないのは、ボクの方だと思う。でも、この状況が楽しくてしょうがない。ボクはやっぱり先祖返りで、人間じゃないのかもね。
「わ、わた、私は、私が、私がやったの……」
唯花が涙を零しながら言った。
良く出来ました。ちゃんと自分のお口で本当のことが言えましたね。わー、偉い偉い。最高だね。気分がいいよ。
「どう? 信じてる人に裏切られた気持ちは? 」
いい顔だよ。絶望しきった顔。
でも、気に入らない。巳高が絶望していないことが。大事なキミの駒が計画を台無しにしたんだよ?
「あーあ、バレちゃった。でも、まあいいかな。正直、困ってたんだよね。イジメがハードになっていってさ。止められなくなっちゃってて。」
そういうことを言う巳高は多分、ボクと同じで人間性が無いんだ。欠片ほども。
巳高は鬼次に思いっきり殴られている。
ほら簡単なんだ。人間関係を壊すのは。ちょっとつつけば勝手に壊れてくれる。 ボクが手を下さなくても。
「あはははは! 最高だよっ!! キミ達はとても残念なやつらだよ!! 」
笑ってやった。思い切り。皆がボクにしたように。




