41話 終演の幕開け
冬休みに入ってからほとんどをボクは鉄尾の家と森で過ごした。鉄尾の側だけが安心できる所で、心が休まる所だった。鉄尾の前では、ボクは笑顔で過ごせた。嘘のない笑顔で。一緒に居られることでボクは満足していた。
鉄尾は時々ボクの顔を見て、赤くなったり俯いたり訳の分からないことをしたりしていた。ボクが鉄尾をそうさせると言われた時は側にいない方がいいのかと思った。だけど、鉄尾は手を放してくれなかったから、勝手に側にいてもいいと思うことにした。勝手な解釈だと分かっていた。だけど、ボクにとっては鉄尾しか居なかったけら。
鉄尾だけがボクの心を動かすことができた。鉄尾の一つ一つの動きがやたらに気になってしまう。さりげない優しさに喜んだり怒ったり。涙も鉄尾の前では正直に出てきてしまって困った。
そんなこんなで冬休みの真ん中、大晦日がやって来てしまった。この日と正月三が日だけはさすがに神社にいないといけなかった。ボクが心待ちにしていた日でもあった。作戦を実行するために。覚悟しておいてね?
まさか、お父さんお母さんが来るとは思ってもいなかった。ボクは遠目に見ただけだけどそれでも嬉しかった。お父さんもお母さんもボクと一緒でこの村をあまり好きではないし、ボクの性格をちゃんと理解してくれるから。いつだって味方をしてくれて嬉しかった。ボクの性格はこんなにこんなに歪んでいるのに二人はそれすらも愛してくれている。ボクを人間だと認めてくれた。
今すぐにでも走り寄って抱き付きたい。でも、ボクは隠れた。
体は傷だらけ。声もかすれている。間違いなく心配してくれるだろう。だけど、それは二人に迷惑をかけてしまうことになる。もう一つ。ボクの決心が揺らぎそうだったから。今、二人の暖かさに触れたら、何もかもを放り出したくなる。絶対に。
だから、ここでお父さんとお母さんの姿をしっかり目に焼き付けた。
夜がやって来た。大晦日の夜。一年の最後の日。
皆で食べる夕食すら顔を出さなかった。具合が悪いからという言い訳を作って。その間に作戦の準備をした。
お父さんお母さんは長旅で疲れていたから、今日は早く眠る。二人が眠る時間を見計らって、ボクはキツネ達にお使いを頼んだ。龍牙と鬼次と巳高、唯花、光鬼、お祖母さん、お祖父さん、ツッキー、鉄尾を神社を囲む湖に呼んで来てくれって。
湖の真ん中にある島に行くための橋を渡る。それから、だれも、ボクに触れられないように普通の結界を張った。結界は半球になって、7メートル以内はボクしかいられなくなった。我ながら、上手く出来た。思わず苦笑してしまった。
やっぱりボクは人間じゃないな。だって、普通に結界を張れてしまうのだから。
空には満月が浮かんでいた。綺麗だ。
ボクは嫌いな巫女装束に身を包んでいた。
歌を口ずさむ。暇つぶしに。もう、綺麗な声は出ないけど。淡くて切ない恋の歌。ボクには似合わないと思ってた歌。でも、今は痛いほど歌詞の内容が理解出来てしまう。息を吐き出す度に目の前が白に染まった。
やっと集まって来た。ほとんどの人が文句を言っている。
鉄尾はボクに走り寄ろうとして、結界に阻まれた。
「空! すぐに湖から離れろ! 」
鉄尾、やっぱりキミは何もかも知っていたんだね。だから、この結末にしたくなかったから頑張ってくれていたんだね。
___________さあ、終焉の章を始めようじゃないか!




