36話 鳥居の下で
ボクの答えが不満だったらしくボクは鬼次に首を絞められた。ボクの本心を言ったのに、何でこうなるんだ!? いや、これが鬼次の中では当たり前なのかもしれない。
苦しい。息が出来ない。
口が開いてしまう。
鬼次は開いたボクの口を自分の口で塞いできた。舌が、ボクの口の中を無遠慮に埋めていく。気持ち悪い。吐き気がするし、呼吸ができない。
ボクの足から力が抜けた。酸欠だ。頭が痛い。ボクはそのまま膝まで崩れ落ちる。鬼次は手を放している。ボクは唾を吐き捨て、唇を袖で拭いた。とにかく気持ちが悪い。こんな奴にキスされるなんて信じられない。クソッタレが。
「俺様の言うことを聞け」
偉そうに。何様のつもりだろう。猛然と腹が立ってくるのが自分でも分かった。
ボクは立ち上がる振りをして鬼次の足のすねを遠慮なく蹴っ飛ばした。言うことを聞けだなんて、上から目線すぎだし、道具としてしかボクのことを見てないじゃん。キミみたいな奴に貸す力なんてない。おまけにボクのファーストキスを無理やり奪っておきながらなにを偉そうに振る舞ってんのか理解できない。
憎いよ。最悪だ。ファーストキスを奪っただけで夫気取りなんて気持ち悪すぎて吐き気がする。というか、何様のつもりなんだろうね、本当に。
素早く、刀を抜き突きつける。裏一文字だ。ちょっと掠っただけでも血がでるよ? 鋭く危険で美しい刀なんだから。
鬼次は裏一文字を見てもそこまで怖くないらしい。もっと怖がってくれるのを期待してるのに。何でだろうな。
ボクはじりじりと後ろに若干、下がる。鳥居から離れるためだ。神社を破壊した訳じゃないからね。ただ、目の前の鬼次さえ殺せれば問題ないんだから。ボクの前で命乞いするまでなぶってやる。
「なあ、姫さん。お前、動き、遅くなってないか? 」
遅くもなるだろうね。余命1か月なんだから。まあ、言わないけど。というか、言うつもりにもならなかったけど。
でも、バレないように鍛錬の量を増やしたんだけど、なんでこんなことばかり鋭いんだろうね? バラす気は毛頭ないけど。鋭いクセにボクのことを分かろうとしない。
ここで叫んでしまえたら、楽だろうけどボクの無実を証明するものじゃないから意味ない。もうすぐ死ぬから優しくしようなんてまっぴらごめんだ。
だから。
「知らねえよ」
嘘を重ねる。嘘で貫くしかない。このことは知らなくていいことなんだよ。
今更、なんだっていうんだ。全部全部、今更なんだよ。遅すぎた。
ボクは雪の塊を鬼次に投げた。全力でその場から去るために。涙を見せたくないから。




