35話 舞い落ちる雪
千年樹の下でどのぐらい歌っていたんだろう? 声はかすれているけど、歌い続けていた。小さな声で。ずっと。そんな気分だったんだ。
鉄尾が来てくれる思っていた。来ない、か。当たり前だ。こんなに雪が降る日は皆大人しくしているというのに、ボクだけが彷徨い出てきてしまったんだ。神社にいるのが怖くて。ただそれだけの理由で。
鉄尾に会いたかった。会って安心したかったんだ。ボクは我がままだな。
でも、側にいて欲しいと願ってしまうんだ。随分、ボクも弱くなったものだ。
あきらめて、立ち上がる。帰ろう。暗くて重いあの家に。あたたかさの欠片も無い家に。
山を下る途中、龍牙と会った。何しに来たのだろう?
「お前を迎えに来た」
はい? 迎え? そんなの頼んでいない。ボクを思うならイジメられている時助けてくれればいいのに。ボクが都会から帰ってきて村人全員に殴られている時、助けてくれたのは鉄尾だった。龍牙は最初から居たのに、見てただけじゃないか。
こんな時ばかり仲間面しないで欲しい。助けている自分に酔っているだけじゃあいか。ただの自己満足だろ?
「怒るのは分かる。だから、傘、持ってきた」
怒る気持ちが簡単に理解されてたまるか。どの辺が分かると言いたいんだろうね。思考が甘い、甘すぎて殴ってぶち壊したくなる。存在しているキミの思考を全部を破壊して恐怖を植え付けたい。それで、やっとボクの気持ちを半分ぐらい理解できるんじゃないかな。
差し出された傘をボクは取らずに通り過ぎた。キミからのお恵みなんていらないよ。受け取るはずもないじゃないか。まあ、ご苦労様だした。とんだ無駄足だったみたいだけどね。
雪に濡れながら帰った。時折、咳き込みながら。龍牙は追いかけては来なかった。キミの気持ちもその程度ってことだと分かったよ。
神社の入り口で、鬼次とすれ違った。目立たないようにしていたつもりだ。
鬼次はボクが階段を上りきると鳥居にボクを押し付けてきた。両手を抑えられた。背中をしたたかに打ち付け意識が一瞬遠のきそうになる。ダメだ。慌てて、唇を噛みしめた。痛さで意識を繋ぎ止めるために。鉄の香りが口の中で広がった。それが咳のせいなのか、噛みしめたせいなのか、ボクには分からなかった。
「姫さん、お前は本当に俺様を裏切ったのか!? 」
何を言い出すかと思えば、そんなことか。裏切ったかどうかは最初に聞くべきことじゃん。寝ぼけてることを言ってくれるね。可笑しくてお腹を抱えて笑い出しそうだよ。
ボクが裏切ったのかもなんて、言ったらどうするつもりなんでしょうね? 殴るんでしょうね。
逆にボクがここで真実を口に出したとしたら、キミはどうするって言うんですか? 助けるんですか? 今更になって? ちゃんちゃら可笑しいよ。
生憎ボクは今の問いに答える義務はないよ。答えたくないもん。馬鹿馬鹿しい。本気で知りたいなら、自分でツッキーのように調べて来いよ。
「今更どうだっていい」
ボクにとって裏切りとか大事じゃないよ。そう、もうどうでもいいことなんだよ。




