34話 隠した物
思ったより長く咳き込んでしまい、血も大量に吐いてしまった。神社の境内に血ってマズイだろうな。でも、咳は、まだ、おさまりそうに無い。全く、なんて厄介な病気なんだ。
やっと咳が止まった。でも、想像していなかった量の血を見て動きを止めてしまった。
「あは、ははは……。今回は多いな……」
笑わなければやっていられない。何だこの量は? こんな量は初めてだ。
誰かが走って来る。何だよ、こんな時に限って。振り返るとそこには光鬼がいた。イジメてくるのかと思ったけど顔には心配そうな表情が浮かんでいた。
「空……。それ……」
何だよ、今更、心配そうな顔されてもね。心配ごっこなら他所でやってもらおう。愛用の刀、裏一文字を光鬼に突きつけた。光鬼は案の定、うろたえている。心配したら甘えてくるとでも思ってるのかな? ああ、うっとしい。何で、ボクの周りには考えが甘い人ばっかりなんだろう?
「このこと、誰にも言わないよね? 光鬼」
ボクはキミが嫌いだよ。食べることが楽しみの一つだったのにボクからそれを奪っていったんだから。針のプレゼントは初めてだったから驚いたし、痛かったよ。まあ、おかげで敵が作ったり運んで来たりしてくれた食べ物を食べていたことに気が付けたよ。敵が運んで来るご飯を食べていたボクも相当甘ちゃんなのかもね。
「なっ!? 言うに決まってんだろ!? 」
まあ、キミならそういうと思ったよ、光鬼。ボクばっかりがキミ達のことをこんなに知っているんだ。何でだろうね。キミ達は敵なのに……。
「光鬼、言ったらキミが緑間家の養子だって言いふらすよ? そしたらどうなるだろうね? 」
意地悪なボク。ずる賢い。ボクは醜い。
「何でそれを……」
光鬼、ボクが自分で調べられる訳ないじゃないか。それすら、キミは気づかないんだね。一緒にいて辛い。側に居たくない。
「言われたくなかったら、黙ってな」
光鬼が頷くのを確認してからボクは血を隠すために足で雪を被せた。光鬼は黙ったままボクの作業を見ていた。皆がボクの病気を知らなければいい。そしたら罪意識も軽くなるのだから。
光鬼には辛い思いをさせることになるな。ごめんね、光鬼。
ボクは歩き出した。光鬼は自分の傘を差したまま固まっている。悩んでいるんだろう。でも、キミは結局言えないよ。だって、この秘密は言われたくないはずだから。
ボクは山に行く。この雪の中。傘すら差さないで。だって、その方が安心するんだ。視界に空が映って。
桜の千年樹の下にたどり着いた。木の葉は全部落ちてしまっているのに、雪宿りぐらいは出来そうだった。
ここだけはボクをいつも、同じように迎えてくれる。




