31話 逃げ場のない道
ボクとツッキーの会話を聞いた龍牙は必死に謝ってきた。急にコロコロ態度を変えられても困るんだけど。というか、そういう奴が一番信用できない。それに、ボクがそんな簡単にホイホイ人を許すと思ってんのかな? だとしたらボクを知らなすぎるよ。全くと言ってもいいぐらい。
第一、熱湯をかけたのは龍牙、キミだよ。いまでも、傷が残っているのに調子良すぎでしょ? 口先で謝って許してもらおうなんて。考えが甘すぎる。どれだけ楽に生きていたのか、まる分かりじゃん。
無視して、龍牙の側を通り過ぎようとした。
腕を捕まれる。ああ、キミは本当に嫌な奴だよ。自己中心的で、ボクの気持ちなんか考えたことがないんだ。勝手にボクに期待して勝手に傷つく。何を勘違いしているのか知らないけど、そういうの、吐き気がするぐらい嫌いだ。
まあ、見ていて飽きないよ、キミの行動は。だから、龍牙の耳にささやいてあげた。普段のボクからは考えられないぐらい低い声で。
「今更謝っても、許す訳ないじゃん」
龍牙はボクから手を離した。龍牙はその場に座り込む。頭を抱えて。残念な人だね。キミはそこでずっとそうやってるのがいいと思うよ。誰も傷つけず、自分も傷つかないですむ方法ってありもしない物を探そうとするから、人の意見に流される。結果、周りの人も自分も傷ついてしまう。可哀相。でも、なんて人間らしくて美しい。
ボクとツッキーは龍牙を残して階段を降り始めた。
ツッキーは階段を下りながらもボクにとって、もう一つ真実を伝えてくれた。
なんと、神社で働いている光鬼は本当のところ、赤尾家の長男らしい。つまり、鬼次のお兄さんなのに力が発揮できなかったから緑間家に養子に出されたというのだ。
まったくもって初耳だった。
でも、思い当たることはある。神社の結界は鬼次だけであんな風に強くはならなかったはずだ。光鬼がいたから、あそこまで強い結界になっていたんだ。もっと、注意していたら気が付けたことだと思う。
色々な思惑があるんだ。この事件には。きっと、ボクが知ろうとしないでけで。でも、もう知らなかったは許されない。
どんなに酷くても知らなきゃならない。
教室に入る前にツッキーには別れてもらった。ツッキーまで巻き込むわけにはいかないんだよ。それに、クラスの連中も背負うのはボクをイジメた罪だけでいい。他の罪まで背負わせるのはあまりに不憫だ。
ボクは強いから平気。この状況を楽しんでいるんだから。
「怪我したら内に来て。医者、やってるから」
ははは。ツッキーは優しいなあ。
ボクはやっぱりすごく蹴られた。ボクが髪を切られそうになったからって逃げだした罰だって。
暴力しか能がないんだね。残念だよね。
途中、血を吐いてしまった。誰も心配なんかしなかったけど、ツッキーが泣きそうになっていた。ツッキー、泣かないで。ここで泣いたらダメだよ。ボクは強いんだから。




