29話 髪
ボクがした質問は宙に消えた。
「神社の下で眠っている龍たちを永眠させることは可能なんだね、鉄尾」
ボクが出した声は質問ではなく確信した低い声で追い討ちをかけた。
鉄尾はボクから視線を逸らした。鉄尾もボクを信用していないのかな?
「空、不安にさせたのならすまない。でも、それは最終手段だから……、教えたく、ない。今はまだ…」
そういうことか。この答えを聞くだけでこんなにも安心してしまう。不思議なもんだ。他のやつを信用していなかったのに、何故か鉄尾だけは信じている。同じぐらいの気持ちで裏切られたくないと感じる。鉄尾だけは裏切って欲しくないと。我ながら呆れる考えだ。
鉄尾はボクの頭をなでる。別に嫌な気分ではないから撫でられている。
「空は髪が綺麗だ」
ボクの黒髪が、綺麗、か。
意外なものだ。
黒くて長い髪はアイロンなんて当てたこともない。だから、若干ぼさぼさだ。それを綺麗だなんてね。
うれしかった。よく分かんないけど。
山を下りてもその言葉だけはボクの胸の中でボクを温めてくれた。
家に帰らず、学校に行く。こんな生活がボクの、キミ達の当たり前になっていた。
今日も登校日。夏休みが休みにならないという残念な学校。
セミがうるさいぐらい鳴いている。切なくなるような寂しくなるような声で。
いつもと同じように教室のドアにはバケツ。ボクがかかってあげる理由なんてこれっぽちもない。ボクはドアを開けてバケツを蹴っ飛ばした。バケツの中身は近くにいた女子にかかった。
最高だ。こんな仕掛けをするなら、自分たちも濡れる気で来なきゃだめだよ? ボクは本気でイジメられているんだからさ。キミ達も本気で来なきゃ。怖い顔をしてくれても内心で不細工だなって笑うだけだよ。幼稚だねって。いい加減気づけばいいのに。全部ボクを楽しませているだけだって。
机に書いてある落書きだって似た内容ばかり。もっと頭を使いなよ。つまらないからさ。
さっき水を浴びた女子が集まって来た。何かな?
ボクの髪に冷たい金属が触れた。嫌な音と共に黒い髪が舞い落ちた。
そういうことか。腹いせにボクの髪を切ったんだね。まあ、切られたのは先端の方だけど。全部切られるのはちょっといただけないなあ。包囲しているつもりだろうけど逃げれる。
邪魔な奴を蹴り倒しながら進む。正当防衛だよ。皆で襲い掛かても無駄。ボクの方が断然強いから。
おまけに団体行動にしては統率がとれていない。やろうとしていることが皆バラバラ。つくづくバカだなって実感できるでしょ? 見てて本当に飽きないよ。




