28話 記憶と目標
激しい頭痛に襲われた。全部、全部思い出した。思い出せた。どうしてボクが六華村が嫌いだったのかも。
ボクに守護のためのキツネのミツがいた。ボクが生まれた瞬間からずっと。だから、ボクが先祖返りだと分かったらしい。でも、ミツは普通にボクの側にいてくれた。ただ、普通のキツネだったのに……。
先祖返りの力は使い方によって神社の下に眠っている龍や鬼や大蛇を操れるらしい。人は力を欲しがった。でも、その方法はボクを操るしかなかった。
ボクを操れるイコールとてつもない怪物の力を手に入れるということ。
だから皆がボクを欲しがった。とても怖かった。あの事件でそれは絶頂を迎えた。我慢の糸ははじけて切れた。怖くて怖くて逃げだした。逃げるしかなかった。そして、全てを忘れた。
いや、忘れたつもりになっていた。忘れたということにしておきたかったんだと思う。だから、得体の知れない恐怖だけが心の奥でくすぶっていた。
ボクは恐怖から逃げたんだ。
なのに、ボクは戻ってきてしまったんだ。この、無数の手がボクを狙ってくる村に。人を人とも思ってくれない村に。
この今の事件が引き起こされた理由は、ボクを孤立させるためだったんだ。ボクの精神を痛めつけて反抗心すらなくなるぐらい弱らせて言うことを聞かそうとしているんだ。ボクに苦痛を感じさせて屈服させるためだったんだ。
確かに、とても利口な案だよ。正面から来てもボクが先祖返りである限り妖力で触れることすら叶わないだろう。だから直接自分が手を下さなくてもボクが弱るのを待てばいいこの作戦は普通の人にはとても有効だと思う。普通の人には。
だけど生憎犯人は一つだけ計算していないことがあった。
ボクは普通の人じゃない。いや、普通の思考をしていない。むしろ、この状況を楽しもうとしている。ボクは強いから。そう、この状況をボクは楽しんでいる。集団のバカさを見てバカにしている。心の中で見下せることを喜んでいる。ぜんぜん、堪えていない。ボクの体は痛いと悲鳴を上げているけど、元から信用していない人に裏切られても心は痛くもかゆくもないんだよ。
弱ったところをボクを捕まえればいいと思っているらしいけど残念だったな。
「おい、空? 平気か? 」
鉄尾が覗き込んでいた。
龍牙が覗き込んでいることに気づかなかった。疲れはあるんだね、ボク。
「ああ。ねぇ、鉄尾。神社の下で眠っている龍たちを浄化する方法はないのかな? 」
自分でどうにかしないと。




