27話 薬
お姫様抱っこと言う恥ずかしい体制が続く。何を言っても鉄尾は下ろしてくれない。ただ、悲しそうな目をして謝ってくるからこっちが辛い。だから、説得して下ろしてもらうことは諦めた。
やっと、鉄尾の家の着いた。鉄尾はボクの体を気遣ってゆっくり行動してくれている。何だか、申し訳ない気分になってくる。鉄尾はボクのために動いてくれている。ボクを信じてくれている。それなのに、ボクが怪我したことを自分のせいかのように謝ってくれている。
鉄尾が謝る必要なんかこれっぽちもないんだ。
「ほら、薬だよ。塗り薬だ」
ボクにそんなん渡されても……。
「ほら塗れ」
ボクの火傷を気にしてくれたのか。本当にいい奴だ。
その優しさでボクが壊れそうだ。久しぶりだったから。人の優しさに触れるのは。
「いいよ、そのうち治るから」
人の優しさが久しぶりすぎてそれ故に恐れた。怖い。怖くて切ない。優しさの裏を疑ってしまう。
素直に優しさが受け取れない自分が悲しくもあった。
そしたら、鉄尾によってボクは壁に押し付けられた。いわゆる壁ドンってやつで初めての体験だ。なんでこんな体勢になっているんだ、ボク?
「オレが手取り足取り塗ってやろうか? 」
はず、恥ずかしい。おまけに鉄尾の目が獲物を狩る、オオカミみたいになっていて心臓がバクバク音を立てた。
「分かったよ、分かった!! 自分でぬるうう!! だから離れて!! 」
鉄尾を押し返した。鉄尾はにやりと笑ってボクの手に薬を置いた。全部鉄尾の計算通りって訳か。
鉄尾に渡された薬はいかにも薬っぽい匂いがした。少しひんやりした。
火傷の後は自分で言うのもなんだけど痛々しかった。強くこすれば皮がはがれてしまいそうだ。だから、そっと薬を肌に乗っけるように塗っていく。
「なあ、空。空は9年前のこと知りたいのか? もし、それが嫌なことだとしても、知りたいと思うか? 」
「知ってんのか!? 」
戸の外にいる鉄尾が声をかけてきた。
思わず大声を出してしまった。知りたいに決まっている。
「ああ。知ってるさ。お前は先祖返りだから、妖力が高い。だから、妖からもだけどそれ以上に人間に狙われていたんだ。特に青目家に。そして事件は起こったんだ」
青目家。その名詞を聞いた途端頭痛が始まった。9年前……。
「巳高の前の代の青目の家の守護者が龍牙を狙った刃を空が守った。でも、空を守護するキツネが目の前で殺された。オレは守ることができなかった。今も、昔も!! 」
ああ、そうだった。ボクはあの桜の下で一緒に遊んだ子ギツネを目の前で!!
事実があまりにも重くて辛かったから自分で封印してしまったんだ。
守のギツネのミツ。
___________ボクの犠牲になった、可愛そうなキツネ。




