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粉雪   作者: 若葉 美咲
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26話 森

 誰も入って来ない森。ひどく安心感をボクのもたらしてくれた。キツネが守ってくれていることがとても心強い。

それと同時にどっと疲れが押し寄せてきた。少し休もう。すぐ、起きれる。目をつぶった。

 すると、森をゆっくりと流れていく涼しい風を感じることができた。キツネが側の集まって来てくれている。あたたかい。目を開けている時よりもずっと多くのことを感じることができた。不思議な気分だな。

 いつもはうるさく聞こえるセミの鳴き声が遠くで聞こえる。そこまでうるさいと感じなかった。木に寄りかかる。そのまま眠りの闇へ吸い込まれて行った。


 誰かが呼んでいる。必死だな。ボクなんかを呼んだってしょうがないよ。何も変わらないから。

 うるさいな。起きてあげる。しょうがないから。

「おい、空!! 起きろ!! 」

 意識が急にはっきりした。辺りは真っ暗だ。多分、もう真夜中だ。夏の夜らしく暑くてジメジメしている。汗が流れた。ここは……、森の中か。うっかり爆睡ばくすいしてしまった。

 ボクを起こしてくれたくれたのは鉄尾だ。心配しすぎだ。過保護だぞ。でも、ありがたいな。このまま寝てたら風邪ひいただろうし。

 そんなことを思いながら体を動かす。

 ぐっすり眠ったのは本当に久しぶりすぎた。

「鉄尾、どうしてここが? 」

 気になったから聞いてみた。ほんのちょっとの好奇心だ。それと少しの時間かせぎだ。体が思ったより動かしにくくてしょうがない。寝すぎたせいなのか、火傷のせいなのか。

「キツネが教えてくれたんだ。それよりほら、立てるか? 」

 はあ、成程ね。鉄尾には何でもお見通しって訳か。せっかくの時間稼ぎが無意味になった。

 火傷が痛くて堪らないこともボクの体が思うように動かせないことこともたぶん全部、鉄尾は気づいている。気づいているから知らない振りをしてくれるんだろうな。


 やっと、起き上がったのに再びよろけてしまった。勢いよく地面に座りこんでしまった。醜態しゅうたいだ。普段ならこんなバカをさらさないのに体が動かない。これも火傷のせいなのか?

 何にせよ、悔しくてしょうがない。


 急に体が宙にういた。

「ちょ、何やってんの? 」

 なんでお姫様抱っこ何んかされているんだ!? 恥ずかしい。

 何を考えてるんだ鉄尾は! あれか? 新手の嫌がらせか!? ボクは自分で歩ける、というか、歩いて見せるから下ろしてくれ。

「お、下ろせよ!! 恥ずかしい! 」

 手足をバタバタさせようかと思ったけどやめた。体が痛いから。

「ごめん」

 そう、つぶやいた鉄尾の顔に怒りと悲しみが見えた。ボクに怒ってるわけじゃない。

 ボクがこんな怪我してしまったことに怒っているんだ。

 ボクのためにそんなに怒ってくれたのが嬉しかった。こんな時なのに。


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