25話 運命
熱湯を体じゅうに浴びた。すごい痛い。
クラスの皆が安堵して動きを止めた。ボクがもう動けないと思ったんだ。甘い。甘いよ。ボクが先祖返りだと言うことを忘れているんだ。ボクがもう動けないと思っている。その隙を最初から待っていた。最初からずっとだ。詰めが甘いよ、龍牙。
ボクは走り出した。駆け足は嫌いだが得意だ。速い方だ。命がかかっているから痛さなんか気にしている場合ではない。廊下を走り抜け、階段を2段飛ばしで駆け降りる。上履きから靴に履き替える余裕もなく、学校を抜け出した。校庭も頑張って走り抜ける。後ろから追いかけられたら怖い。怖いと言うより痛さが恐怖を引き連れて来る。
熱くて痛いから、熱湯をたくさん吸収した洋服を脱ごうか迷った。でも結局止めた。だって、洋服に皮をひっぱられてはがれたりしてしまう。
妖力で服に残っている熱湯を弾き飛ばした。それでも、体に熱は残っていた。
森を目指す。森はキツネがいてくれる。そのキツネ達が守ってくれる。そう、鉄尾が言っていた。今は、信じて進むしか道はない。鉄尾はボクに嘘をつたことがない。だから、キツネもきっといる。
4月に歩いて来た駅へと続く小道をかける。途中からキツネが現れた。たくさん、たくさん。
ボクはようやく足を止めた。息切れが激しくて苦しい。上手く息が吸えなくて金魚のように口を動かす。
ようやく息が整ってきたころにはキツネがかけてくれた水で体が冷えていた。火傷は残ってしまったけれど大けがとまではいきそうにならない。大分、落ち着いた。
キツネはボクを守ってくれた。他の人はこの森に入れられないらしい。キツネがそうしてくれた。
身体中がしびれるように痛い。体全部が。熱は何とか引いたけど、痛い。
力が抜けた。座り込んでしまう。足も手も後から後から痛くなる。どうしようもない。ボクが一体キミ達に何をしたって言うんだ? ボクはただ、生きているだけだ。人間として。それが罪だというのだろうか? ボクはそうは思わない。生きることが罪になんかなるはずがないのに……。
ボクは一体どこで間違えた道に進んだ?
もう、本当の意味では笑えない。残るのは貼り付けられた歪に歪んだ仮の笑顔だけ。腐りきった、曲がった思考。
妖力で、キツネがかけてくれた水分を飛ばした。腕をみれば、ひどくグロイ状態になっていた。今後はどんなに暑くても長袖を着るしかなさそうだ。やれやれ。ボクのことをもう少し考えて欲しい。
やっと、ボクらしい思考が戻ってきた。
ボクが弱いことは許されない。弱ければ、流されてしまう。運命に。強くあれ。




