22話 仲間
段ボールの影を覗き込んだのは鉄尾だった。もちろん、刀をつきつける。
緊張がこの場を支配した。向こうは両手を挙げた。敵意がないなんて信じられない。ボクは無言のまま鉄尾を睨みつけた。さあさあ、どうするんだろうね? キミがこれからどうするのかが少しだけ楽しみなんだ。せっかくだから楽しませてね? ボクはどうせ暇なんだから。
「よかった。生きてるみたいで。手刀の落とし方が悪くて死んじゃったのかと…」
おいこら。キミは未完成な技でボクの意識を飛ばしたのか。
なんかムカつく奴。
そんなんじゃ安心できない。ボクは鉄尾に刀の切っ先を向けたまま表情をピクリとも動かさない。ふふふ、気づくかな? ボクがキミを警戒していること。いつでも、キミを殺れるってこと。気づいているなら反応してくれないと。
ボクはね、キミの本心が聞きたいんだよ。ねえ、鉄尾? そうじゃないと殺しちゃうかもよ。
思うだけで口には出さないけど。
「なあ、空。空はオレのことどう思ってる? 敵か? 味方か? それともこれら以外なのか? 」
その質問こそボクがキミに尋ねたいものなんだけど。鉄尾の緑の目がきらりと光る。お互い、本気ってことか。キミはボクを見極めようとしている。ボクもキミを見極めたい。
「今の時点では何にも答えられないよ。キミはどう思っているんだい、沢村 鉄尾」
鉄尾は目を見開いた。
「オレ? オレは空の味方だよ。当たり前じゃん。無実な奴をイジメるやつにはなりたくねえ。オレのオヤジは無実だったのに殺された。そんな理不尽は許せない。それに空がそんなことするわけねぇ。最初から空が裏切り者じゃないと思ってる。だから、オレは空を信じる」
心が震えた。こんな簡単なセリフをボクは待っていたなんて。心が乾燥するほど信じる心を求めていたなんて。
可笑しいよね? でもね、ボクだって人間だ。誰かに人間として信じて欲しいんだよ!!
ボクの手から裏一文字がするりと落ちた。音を立てて落下していく。
「おいっ!? 」
しゃがみ込みそうになったボクを鉄尾が抱きしめてくれた。ダメだ。泣いては。泣くまいとするのに、不思議と涙はこぼれた。ああ、久しぶりに思い出した。人って暖かい生き物なんだって。優しくする心もあるってこと。
ボクの心の氷を溶かし切ってしまうほどに、鉄尾は暖かかった。そのぬくもりが嬉しくてしょうがなかった。
でも、ボクの味方になれば鉄尾まで…。鉄尾までいじめられたらボクはさらに傷つく……。
「鉄尾。いいよ、ありがとう。味方って言ってくれるだけでうれしいよ」
それ以上は望んだらいけない。




