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粉雪   作者: 若葉 美咲
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20話 気持ち

 布団で浅い眠りについている。

 長い長い夜が終わり、やっと朝と呼べる時間になった。今日から夏休み。

 そそくさと着替えを済ます。急いでいる訳では無い。ただ、体じゅうあざだらけになっているから、誰にも見られたくない。それだけの話だ。


 朝、すれ違ってもお祖父さんもお祖母さんも何も言わない。あいさつすらしないのだ。そこにボクが居ないかのように振る舞う。しかも、居ないのが当たり前のようだ。そうしても、ボクが傷つかないとでも思ってるの? ボクは人間だよ。

 それを知ろうともしない人にはボクは語らない。感じたことを表に出さない。皆が、ボクにそういう役を求めている。思い込んでいるだけだと、気づこうともしない。


 ボクは黙って家を出る。言う義務なんてどこにも存在しない。キミ達には関係ないことでしょうから。閉じ込められるのはいやだ。

 体じゅうが痛む。顔をしかめてしまう。

 思ったように体を動かせない。

 指先が細かく震えている。痛みからくるものか恐怖からくるものか、それとも、苛立ちからくるものか。震えが何を示そうとしているのかボクには分からない。多分、全部だ。


 足を引きずるようにして山をのぼる。あそこならきっと誰にも見つからない。村の北側にある竜山の千年樹の下ならボクも休むことができるだろう。体全部がなまりのようだ。一歩一歩がすごい辛い仕事をしているようだ。体の疲れに加えて真夏の日差し。飲み物はあるけど、辛いもんは辛い。

 セミがあざ笑うかのように鳴き始めた。朝早く出たのにもう暑くなってきている。歩くペースが遅くてもどかしくてならない。それほどに体が弱っていたことに驚かされた。正直、幻滅げんめつした。悔しさと悲しみが心がいっぱいだった。

 ようやく千年樹の下にたどりついたころには10時を回っていた。素晴らしすぎて涙が出てきた。自分がここまで弱くなっていることを改めて認識させられた。


 気を紛らわすために小さな声で歌を歌った。声はかすれてしまう。

 視界が揺らぐ。何で? ボクは泣いているの?

 分からない。分かりたくない。

 ひたすら歌った。涙を隠すために。日が落ちても。


 誰かいる。気配に気づいたのは暗くなってからだった。歌うのをやめる。

 夜だから夜目でも利かないかぎり、ボクの姿は見えないはずだ。息を殺してそこで動きを止める。やたらと変な汗が出た。

 あの人は沢村さわむら 鉄尾てつお。クラスの写真だ見た。学校で一度も会ったことがないけれど。

 何で鉄尾がここにいる? そしてどうしてこっちい近づいて来てるんだ?

「隠れなくていい。見えてるから」

 へえ。意外にも夜目が効くのか。ボクは裏一文字に手をかけながら素早く立ち上がった。体の痛みなんて気にしていられない。いつでも刀で殺れる。

「空、だろ? 大変だよな、裏切ってないのに裏切り者にされて」

 なっ!? こいつは何を知っているんだ!? ボクのことをどいうい目で見てるんだ?

「ボクが裏切り者かもしれないじゃないか」

 希望を持ったらダメだ。違った時につらくなるだけだから。

「なら、何で泣いてるんだよ? 」

 何で? 決まっている。



___裏切り者ではないから。


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