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粉雪   作者: 若葉 美咲
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17話 裏一文字

 今日も疲れた。村が一丸となってボクに襲いかかってくる。体のあちらこちらが痛い。

 布団に倒れ込む。すぐに浅い眠りに入っていった。この家で安心することは不可能。だから、寝ている時でさえ、ボクは気を張り巡らさなきゃいけなかった。

 別に大変なことではない。でも、少しずつ体力が奪われている実感はあった。このぐらいはボクの生活に異常をきたすほどのものではない。それに、キミらに弱いところを見せるわけにもいかない。信じてないから。信じる気なんて、最初からないけどね。可愛そうな人たち。


 眠っていたら、神社を囲む結界の外から殺気を感じた。強く鋭い、肌を刺すような殺気。人間の放てる殺気とはレベルが違う。これはあやかしのもの。

 普段からすぐ動ける服装で寝ているボクはすぐに部屋を飛び出した。庭を駆け抜け玄関に回る。素早い動きで異常のある結界の場所へと向かった。

 結界に反応があったから、龍牙も鬼次も巳高もいる。あの三人は嫌いとか言いつつボクを守るんだね。行動と言ってることが矛盾しているんじゃないかな? それとも、お祖母さんに言われてるから、頑張ってんの? どっちにしろ自分の意志では動けない人形だよ。周りが常に気になるんだ。

 ボクは妖に目をむけた。ボクの先祖返りの血を求めてやって来る。人間よりずっと素直で気高い生き物だと思う。ただ、ボクは殺すことしかできないけど。ボクを狙ってなんかいなかったら友達になれたのに。

 三人が応戦している。もし今の状態で強いと思ってるならとんだ思い違いだ。三人とも弱い。弱すぎる。妖一匹に対し三人がかりなのに、傷の一つもつけられないってどういうことだろう。弱いことを知ろうともせず自分より弱い者を作って安心してるんだろうね。言っておくけど、ボクはキミらよりずっと強いからね?


 見ていられない。なんて、無様な戦い方なんだ。無様でも勝利にしがみつくかと思ったら大違い。押されたらおされっぱなし。ふざけている。

 ボクはいつも腰に下げている刀に手をかけた。この刀は悪名名高い沖田総司が使っていた『菊一文字』と共に作られた合わせ刀『裏一文字』。裏一文字は妖でも斬れる。

 妖は普通の刀じゃ斬れない。むしろ刀が妖に負けるのだが、ごくまれに、強い霊力を持った刀が生まれる。それは鍛冶屋かじやの腕だったり、使った人の心を反映したものだったりする。裏一文字は前記の物で作られた時から妖を斬ることができた。


「どいて。ボクがやるよ」

 嫌われているのは知っているけどいつもの笑顔でいう。でも、反論なんて許さないけどね。

 そんな心を読み取ってか、黙ってみんながこちらを振り返った。

 その瞬間ボクは跳躍した。そして、迫ってきた、妖を一刀両断にした。ごめんね。キミ、生まれ変わったなら賢くいきるんだよ。

 下手に殺されるより楽にいけただろう?

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