14話 歌声
ボクは帰り道、懐かしいところに寄った。朝、あれだけケンカみたいなことをしたから誰もいなくて落ち着いた。桜の千年樹。大好きな所。歌を歌う。久しぶりの挨拶の変わりに。
ボクしかしらない出入り口から出るとそこには驚き顔の龍牙がいた。
なんか面倒。なんでつきまっとて来るのかな? 訳分かんない。
お互いが見詰めあったまま数十秒が過ぎた。この姿勢で龍牙を見上げるのは体制的にきついもんがある。ボクは立ち上がり制服についている葉っぱをはらい落とした。髪についているのも丁寧にとる。
さて。キミは何にも言わないみたいだね。めんどくさいな。察しろよ。そしてどうしてキミがここにいるのか教えろよ。人の顔をあんなに見つめておきながら、何にも言わないとかムカつくよ。
こうしていても何の解決にもならない訳ですね、よく分かりました。こんちくしょう。ボクから理由を尋ねてあげますよ。
「ねえ、龍牙はどうしてここにいるの? もしかして、ついて来たの? 」
得意のポーカーフェイスで、問い詰める。言っておくけど、龍牙。キミに拒否権なんてないよ? ボクから質問させるから逃げ道なんてなくなるんだよ? 答えるまで決して逃さない。
龍牙は答えるかかなり迷っているみたいだね。一応、もうひと押ししておくか。実に面倒だけど。ボクの手間を取らせないでくれるとありがたいなあ。
「ねえ、なんで、かな? 」
少しだけ目を潤まして問い詰める。
龍牙は頭をかいた。
「い、いや、歌が聞こえて、それで…。村中に響き渡ってて。でも、あれだ。すごいお前の歌声好きだ! 」
む、村全体にボクの歌声が…!? 何がどこまでも響いて、だ。ボクはさっきそう思ったよな? 本物のバカはボクだ!! もうどっかに隠れたい。マジで!!
「すごい、きれいだった」
え。キミは耳が残念なんだ。そりゃあ、ほめてもらうのは好きだけど…。でも、ボクの歌は下手なんだ。
友達にいわれたことがある。カラオケだけが全てではないと。
ああ、でもうれしいもんはうれしいな。
この村に来てからの一番の機嫌の良さかもな。綺麗だったのか。ボクの歌が。
お祖父さんにも褒められたし。すごい嬉しい。
唯一変わらなかったのはお祖母さんだけ。あの堅物め。いまに驚かしてやる。ボクがすごく成長しったて見せて、認めてもらう。一人で出歩けるように。
そのためにも、体力はつけて置かないと。
唯花が作ってくれた夕食をしっかり食べる。ダイエットとか気にしている場合じゃない。食べても太らないし。それだけの運動をするし。
お風呂に入る。ゆったりと。窓から見れる満月がすごくきれいだった。
すぐに眠ることにする。その日は疲れていたから難なくするりと眠れた。




