11話 嵐の前の静けさ
普段ならもっとゆっくり汗を流す。
だけど今日は時間が無い。朝、光鬼の練習に付き合ってしまったからだ。もくもくと立ち上がる湯気の中手早く汗を流してゆく。排水溝へとお湯が吸い込まれていく。お湯が流れていく感覚が体を伝う。
その後、新品の制服に腕を通す。新品特有の匂いが鼻をくすぐった。変な気分とともにどこかくすぐったい感覚。
ボクが今日から通う学校は六華村に一つしかない高校。雪ヶ峰高校だ。
学校へ行かなきゃダメなんだよな。かったるい。それに辛い。できれば学校には行きたくなかったなあ。彼らの視線は痛いから。
ボクの足は自然と本堂に向かっていた。仏像がある部屋だ。案内してもらわなくても9年前までここで暮らしていただけあって、体が覚えている。不思議なもんだ。脳の問題だ。体を動かす脳と考える脳は場所が違うらしい。細かいことは知らないけど。
本堂に行って何をしようという目的はあまりない。せっかく神社にいるのだから挨拶でもしておこうと思って。一応、だけどね。ボクの祖先様に。ここで祀っているのは神ではない。村を救ったという妖狐が祀られている。
本堂に入る。あれはボクのお祖母さんじゃないですか。タイミング悪い。どうしよう? 回れ右して帰るのも一つの手段だと思うんですよ、ボクは。でもここまで来て帰ったら感じが悪いよなあ。しゃあない。嫌だけどここは我慢するんだ。
「おはようございます、お祖母さん」
おまけに笑顔もつけておく。いつもの倍ぐらい明るい声で言ってみた。気分的に。
お祖母さんはちらりとボクのことをみた。あいさつは無視されて、代わりに学校についてぐだぐだ説明された。何なんだよ。ボクのあいさつは無視ですかババァ。
いちいち怒ってても仕方がない。お祖母さんはこういう人なんだって思おう。この人には相談ごとはとかはやめておこう。真面目に話を聞いてもらえそうに無い。お祖母さんの話に適当に相づちを打っておいた。
妖狐に挨拶をした。二礼二拍手一礼という、神社のしきたりを守っておく。
ねえ、妖狐さん。あなたが本当にボクのことが大事なら、ボクを守って下さい。
そんなお願いを真面目にした。この村に来てから、やたらと背中の古傷は痛むし、嫌な予感は薄れるどころか濃くなってきている。何かが起こる。それも、ボクがとても苦しむような事態が必ず起こる。そう強く確信している。本当に。
ボクはその後大急ぎで唯花の作ってくれた朝ごはんを食べ、学校に出発した。唯花のごはんはとても美味しくお替りしたかったが、時間がそれを許してくれなかった。




