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粉雪   作者: 若葉 美咲
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10話 稽古

 朝、4時きっかりにボクは起きる。体調が悪い日は別として、大抵この時間に起きれる。訓練したからね。中学の頃は思い切り遅刻してしまった。今となっては思い出の中だけどね。

 着替えもかなり早い方だと思う。ただ、今日から神社内で過ごす時は着物にしなきゃいけない。面倒だな。何考えてるんだか。という訳なので剣道の時に防具の下に着ているはかま姿になる。腰には本物の刀を差しておく。これは実践用。そして、訓練に使うのが木刀。こちらは手に持っていく。


 神社の境内けいだいってすごく広い。中庭も向こう側がかすむくらいだ。ここで木刀振っても問題ないよね。まあ、許可なんてもらうつもりはないんだが。

 早速素振りをしよう。

 どんなやつが相手でもただ無心に切り捨てるのみ。人間相手だったらそうはいかないけど、重症くらいにはしないとねえ。もう、ボクに関わろうとか思わないように。これでも、思いやってるつもりだよ?


 背後に人の気配を感じた。しかも気配を殺そうとしている。

 振り向きざまに木刀を突きつける。刀もいいんだけど、半殺しにするには、木刀の方が楽だ。にしても、ボクの背後をとろうとするなんて、光鬼は死ぬつもりなのかな。まあ、手早く三途さんずの川行きチケットを渡すことはできるけど。

「さすがオレの空だな」

 いや、さらっと自分の赤い髪を掻き上げてるんじゃない。すごくかっこ悪い。笑うところだよな、うん。しかもオレの空って何? ボクはボクですが。他の誰の物でもない。だからこそ、神崎家がめんどくさい。

「おはよう。びっくりしたよ。今後はしないでね。次は殺っちゃうかもよ? 冗談ぬきで」

 笑顔で良いことを言ってやる。めずらしいな、ボクがはっきりとした忠告をするなんて。今日は槍でも降るのかな。傘じゃちょっと防げないか。

「なあ、オレと勝負してくれ。一回だけ。いいだろう? 」

 断ったらうるさそう。しょうがないなー。

 適当にやってわざと負ければいっか。そしたら、再戦とかしなくなるだろうし。この一回だけ付き合ってやるか。どのぐらい強いのかは気になるし。


 勝負が始まる。あれ? こんなに弱いのか!? 嘘だろ。まけるのが逆に難しい。

 いや、光鬼は狙いはちゃんとしてるし、一撃一撃が早い。一般から見ればかなり強い部類に配属されると思う。でもボクの敵ではない。それだけの話。どうやって負けるかが今の一番の問題だ。時間もないからな。やっぱり断るべきだった。

 難しいぞ。思ったより難問だ。

「本気でやれよ。さっきの素振りからして、もっと強いだろ」

 む。偉そうなこと言われると怒るよ? なんにも知らないくせにいいきなもんだね。いいよ。本気出してあげる。プライドを潰しちゃいそうだけど…それならそれでいいか。

 一瞬にして、光鬼の木刀を弾き飛ばした。最高だ。

 驚きすぎて、光鬼固まってるじゃん。間抜け面だし、すごく笑える。あーあ、可愛そうな光鬼君。キミはこのあたりでは強かったんだろうね。いい気味だよ。

 自分のせい何だから。わざわざボクに挑まなくて、良かったのに。ケンカを売るからこういうことになる。


 しなきゃならないことは沢山あるっていうのに、時間が五分も過ぎちゃってる。ああ、もう! これだからやりたくなかったんだ。

 ボクは足早のその場を去った。


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