第17話 絶体絶命のシャワー室
「さっ、シャワーだ。シャワーだ。サッパリするぞ~!」
「汗びっしょり……気持ち悪い」
「うん、私も」
3人は勢いよくドアを開け、続々とシャワー室の中へ入っていく。
レッスン終わりで、もうみんな汗だくだ。
かく言う俺だって、この身体にべた付く不快感……これを熱いシャワーで洗い流せたら、どんなに爽快だろうと思う。
思うけど……でも、今はそんな場合じゃなくて……!
「あれっ? どうしたの、あゆみたん。早くおいでよ」
ドアの前で困惑する俺に、美咲がきょとんとした顔を向ける。
「あ、あの。私は、え~っと……」
何か、何か上手い言い訳を……。
とにかく、このままじゃ良くない! お互いのためにも、どうにか逃げ出して……。
「あゆみたんも汗かいてるじゃん。こっち、こっち!」
頭の中でいろんなことが巡り、俺はその場でうろたえることしか出来なかった。
そうする内に強引に手を引かれ、室内へと誘われてしまう。
まずい。
これは非常にまずいぞ……。
ドアを開けると、すぐ手前が脱衣所になっていた。
洗濯カゴがいくつか置いてある。
ひとまず俺は、彼女たちから距離を置こうと、その中で最も端っこの壁際の位置を陣取った。
「……私ね。レッスンは苦手だけど、こうしてシャワー浴びてサッパリするのは好きなんだ~」
壁と向き合うことで視界を防げても、彼女たちの会話は耳に入ってくる。
何気ない会話……変わらぬ日常。
それを一瞬で破壊できるほどの爆弾が、ここにいるとも知らずに。
どうする?
もし俺が女であれば、何も気に病まず服を脱ぎ、彼女らの輪の中に溶け込めるだろう。
――でも現実は違う! 俺は男なんだ!
こんなところで裸になれば正体がバレて、恵の手術費を稼ぐ計画が台無しだ。
……っていうか、それ以前に俺は社会的に抹殺されてしまう!
一体どうすりゃ、この状況を切り抜けられるんだ……考えろ、考えろ!
「……よっと! あれ? いつきたん、ちょっとおっぱい膨らんだ?」
「ふふ……成長期ですから。牛乳飲んで、キャベツだってガマンしてたくさん食べた……きっと美咲を追い抜く」
「あ、ホントだ。いつきちゃん、成長してるんだね~」
「……由香た~ん」
「イヤミだ……。この女は、イヤミな女だ」
否が応にも、背中越しに聞こえてくる桃色の会話。
すると聴覚から情報を取り入れた俺の脳みそが勝手に空想を始め……それに応じて、心臓がドクンドクンと高鳴りだす。
……いかん! 雑念は捨てろ! お前は今、ピンチなんだぞ!
「あ~。あゆみたん、まだ服着てる~!」
その声が届いた瞬間、俺の緊張はさらにゾクッと高まった。
そして、トタトタと連続する足音がこちらに近付いてくる。
……視界を壁で塞いでいても気配で分かった。
俺の背中を今、3人が取り囲んでいる。
「あゆみちゃん、どうしたの? シャワー浴びた方がいいよ」
「……」
「あゆみたん、レッスンあんなに頑張ってたじゃん。汗もびっしょりだよ?」
「…………」
追い詰められた。
でもせめて抵抗の意思は表そうと、俺は背中を向け続けている。
でも、そんな悪あがきが長く続くはずもなく――
「……こっち向け」
いつきに服を掴まれ、俺の身体はコマのように180度のターンを描いてしまった。
「!?」
そうして視界に飛び込んできたのは……あられもない下着姿になった3人の美少女たち。
「どうしたの、あゆみたん? ……もしかして恥ずかしいのかな?」
レース柄のオーソドックスなブラジャーとパンティーに身を包んだ美咲。
程よい胸部のふくらみと、スラリと伸びた足が彼女の健康的なイメージを象徴している。
「大丈夫……おっぱい小さくたって、恥ずかしくなんかない」
灰色のスポーツブラに、縞模様のパンツを履いたいつき。
その体型にはまだ十分な幼さが残っているようで、さきほど本人が誇っていた胸部よりも、むしろその下のお腹のぽっこりとした膨らみの方に目がいった。
「そうだよ。あゆみちゃん……」
そして今、俺の視線を一心に誘導し続けている…………由香。
なんだその巨大なブラジャーは!?
まるで規格外のサイズだ。そんなもの、普通は店で売ってないんじゃないか……。
「私達、女の子同士なんだよ?」
彼女は優しく微笑んでくれた。
邪気を全く感じさせない……天使のようなその笑顔。
――それから先のことはよく覚えていない。
気付くと俺は、ビル内のどこか誰もいない場所で一人、ゼェゼェと息を吐いていた。
全身が汗まみれだった。
肉体的にも、精神的にも追い詰められて。
もう帰ろう。
このまま家に帰って、シャワーを浴びて、寝て、次の日に起きれば……もう今日のことは忘れてるんだ、きっと。




