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第十四話 法撃

 虹色に輝く魔力の残滓を迸らせ、グラン・パクスは主兵装である四五口径四六糎魔導砲を一門、一先ず展開させた。

 その姿は、その光景は、雲ひとつ無い空の蒼さと陽に照らされた砂の大地とのコントラストの中、まるで一種の絵画のような美しさを醸し出していた。

 のであるが、この場に居並ぶ面々はそのような感傷的なことなど歯牙にもかけぬような人物ばかりであるようで、現実に則した事柄にしかその視覚は働いていないようだった。


「うっわ、何? あの兵装展開速度。超早い」


 管制塔を中心にしてその根本周りを固めるような形状で建てられている、見た目は昔ながらの鉄筋コンクリート然とした兵舎も兼ねた建物の屋上で見学をしている面々は、演習場でこれから始まるであろう、そして今まさに起こっていることに対して率直な意見という無駄口を叩いていた。

 特に、年若い少年少女らは。


「さっき貰った資料には、一ミリ秒で全兵装を一斉に展開可能と書いてあるわ」


 赤毛長髪の少女が目を見開いて驚きを口にするのを受けて、並んで同じように視線を向けていた銀髪ショートの少女が既に資料に目を通していたのか、記載されていたデータを諳んじた。


「またまたご冗談を、とか思ったけどどうもマジモンっぽいなぁ」

「これから配備される予定の最新型のインクリーズド・ブレス級でも、一兵装の展開に50ミリ秒かかるのに?」


 赤毛と銀髪少女らの背後では、頭ひとつ分背の高いガッシリとした体つきの少年が面白そうにそう言いながら微笑みを浮かべ、その横に立つ少女は、背丈こそ彼と同じくらいだがすらりと細身で、そのきりりとした表情は大人になりかけの女性といった趣きを見せはじめている。


「んまあ、アレじゃないの? 発掘騎って話だし、あの頃の費用対効果無視した無駄に贅沢な作りになってるんじゃーないのかな?」


 そしてもう一人、その四人に埋もれるような背丈しか無い少年が、呑気そうな表情で屋上の柵に顔を押し付けながら、真実に近い推論を上げていた。

 彼ら五人を含む若年層の見学者らは、グラン・パクスの試射を急遽執り行う事となった為に本日のスケジュールが全てキャンセルされてしまった、被害者の集いである。

 彼らは「今日一日暇になったんだからその原因とやらを見せろやゴラァ」と嫌がらせを兼ねて無理にねじ込もうとしてみたら、あっさりと許可が降りたのでそれならばと他の候補生らも引き連れて見学に大挙してやってきた、機導魔装奏者候補生達の中心的人物だ。

 総勢、と言っても二〇名ほどしか居ないが、それでも将来的にM.F.A.の搭乗者となるべく養成されている言わばエリートの卵であり、この五人は歴代候補生の中でも特に優秀な部類に入る金の卵でもあった。


「しっかし標的がやけに大盛りだなぁ」

「うん、旧式ばっかりだけど、全部稼働させてるしね」


 グラン・パクスの立つ位置は、現在彼らの居る建物からは概ね一キロメートル程度の距離がある。

 そして標的となっている物は演習場の遥か彼方、10kmを超す位置に並べられているのだが、それらは全て稼動状態にあるのだった。

 稼動状態での標的と簡単にいうが、それは要するにそれぞれに魔導炉が積まれていて全て稼働中、すなわち構造・装甲強化魔法陣を展開可能にしているという事である。

 魔導炉は希少かつ高価なため、通常は取り外して流用される事が多いのだが、今回は大盤振る舞いのようであった。


「五五式魔導主力戦車に装甲フリゲート、あ、重巡洋航空艦まである……ってあれ? あの真ん中のって」

「うわあ、まだ稼動するの残ってたのかよ……」


 彼らの視界の中に、旧式兵器が鎮座する中でも一際異彩を放つ巨大な建造物のような存在が屹立していた。

 それは過去に夢想された巨大戦車を魔法の助力で現実の物とした、ある意味想像を絶する物であった。


「へえ、とっくにスクラップになってると思ってたよ」

「廃棄にするのも一苦労ってことなんじゃないの?」

「費用的な問題なはずよ。あれって設計段階で廃棄する時の事を考えてなかったとかで、色々と面倒なんだって。大きさはともかく、魔導炉の処理が、って」


 巨大、と言えば確かに巨大であった。

 戦艦サイズをゆうに越す巨体に、列車砲クラスの巨大な砲身を多数持ち、分厚い装甲と高出力の魔導炉を搭載したその戦闘力は事実凄まじい物で、まさに動く城とも言え、登場した当時はこれこそ決戦兵器、とばかりに持て囃されていた過去の遺物である。 


「まあ、通常型の魔導炉を載せようと思ったら、あのサイズになるのは仕方ない」

「で、戦闘力は十二分だったけど、直後にM.F.A.……ああ、当時は機導魔鎧か、が現れて陳腐化したんだったな」


 魔導炉は、空間に満ちる魔素を魔力へと変換する為の物だが、その運用には本来極めて大掛かりな設備が必要となってくる。

 魔力制御や魔素から魔力へと変換される際に発生する魔力線の遮蔽などのためだ。

 しかしながら、同様に魔導炉を積むM.F.A.は、それらを奏者が全て己の魔力として扱うために、弊害が発生しないのである。

 同等の出力が発揮出来る上に小型軽量、高火力高機動とくれば、そちらに移行するのも当然と言えた。

 そんな、時代の波に乗りそこねた、一〇km先に配置されている遺物(標的)を、彼らの眼が捉えられているのは、驚異的な視力の持ち主だから、ではない。

 単なる光学魔法である。

 目の前に複数枚のレンズ的な屈折率を持つ力場を生み出し、望遠鏡と同じ状況を作り出しているだけなのだ。

 彼らの手首には、一様に鈍い銀色をしたバングルがつけられ、そこには各自の魔力波長を反映した色彩の輝きを灯した魔法陣と、現在魔法を使っているのだと知らしめている光を帯びた魔晶結石が存在していた。

 そして、そんな彼らの視界を、一条の煌きが横切った。

「え?」と思った次の瞬間には『ぷす』とでも擬音が付きそうなイメージで、その巨大陸戦兵器の最も分厚い前面装甲に、貫通痕が生じたのである。

 そして次の瞬間、驚愕と同時に、彼らを『キン!』という甲高い音の波が襲った。

 グラン・パクスの法撃に伴う衝撃波が数秒のタイムラグをもって今届いたのである。


「ちょ、発射の前兆とか無いの!?兵装展開してから魔力充填にタイムラグとかもっと掛かるでしょ普通!?」

「……渡された資料ぐらい読みなさいよ」

「後で! 今は眼を離せないでしょ」

「確かに」


 赤毛の少女の驚きを、銀髪の少女が窘めるが、今はそれどころではないとお互いに納得する。

 兵舎周辺にまで届く発射の衝撃波は、管制塔周辺を覆うようにして展開されている魔法陣により防がれているが、害のない範囲の音や光は通すため見える光景と聞こえる音とのズレが気になってしまうところだが、そんな事はどうでもいい。


「……貫通とは」

「徹甲弾頭?」

「そりゃそうだろうが……」

「て言うか、今のってあの手に持ってる奴で撃ってない」

「うん、頭の部分から出てた、ように見えた」

「……どういうこった」


 彼らの言うとおり、標的に穴をうがったのは主砲である四十五口径四十六糎魔導砲ではない。

 頭部側面、こめかみ辺りに設けられた四〇口径一二糎七高角魔砲である。

 彼らの見据える先にある、防御力に関してはスクラップにするのも面倒と言われるレベルの兵器が主兵装ですらない兵装で容易く穴だらけにされているのを見て、ゾクゾクする感覚を味わっていた。


「……あれ乗りたい」

「資料読め、ありゃ個人所有で搭乗者専用に設計・調整されてる。他人様が乗れるようには出来てねえらしいぞ」


 赤毛の少女はうっとりした視線でグラン・パクスを見つめながら呟いたが、後ろから突っ込まれて大きな瞳をさらに見開いて、その驚きを隠そうともしなかった。


「じゃあ売ってくれるかな! そしたら私用に再カスタマイズしてさ!」

「なんでそっち行くかな。つーか売ってくれたとしても超高いぞ?」

「パパに頼めばM.F.A.の十騎や二十騎分くらい……」

「そんで会社を潰すわけか。お前さんが後継者路線から外れてこっち来た理由がわかった気がする」


 そんな事を言いつつも、視線はグラン・パクスと標的から離さない。

 次々に放たれる法撃は、一発も標的を外れること無く全て吸い込まれるように撃ち込まれてゆく。

 その貫通痕が片手で数える辺りになった頃、見物客からどよめきが生まれていた。


「装甲に弾着で十字描いて、る……?」

「いや、あの速射で?当てるだけならともかく……それはどうなのよ」


 と驚きと呆れが綯い交ぜになった所で、その十字を刻まれた装甲に大穴が空いた。

 と見えた次の瞬間、これまで以上の衝撃波が管制塔を襲う。


「うえっ!?」

「きゃっ!」


 ズズン、と響いてくる衝撃は、結界魔法陣の防御を抜き、建物を揺さぶるほどであった。


「あれ最初に撃ってても、多分吹っ飛んでたんじゃないかなー。ちまちま穴開けてたのってなんの意味があったのかしらん」

「……試し撃ち、とか?」


 それは多分に正鵠を射る意見であったのだが、その後に続くグラン・パクスの法撃により、痕跡もろとも消し飛んでしまった。

 先ほど展開した砲身よりもかなり小さめの物が、両肩越しに三本ずつ、腰の両側から三本、計十二門姿を表し一斉に撃ち放ったのである。


「何だありゃ!」

「……副兵装、らしい」


 標的の中心に位置する陸上戦艦に止めの一撃を食らわせたあと、グラン・パクスは周囲に存在する各種兵器に向け副砲を展開、各砲門をそれぞれ別の目標に向け放ち始めたのだ。


「おい……おい……」

「……発掘騎ってあんなんだっけ?」


 それは彼らの知る発掘された機導魔鎧とはまさに桁が違っていたのであった。


「欲しいいいぃいぃぃ!乗りたいィイィィ!」

「喧しい」

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