麗
麗の体は誠の体にもたれかかった。
誠はこんな気持になる事が不思議にも思えた。誠は麗の胸に手を当てた。
「やっぱり駄目ね」
麗は誠から離れて言った。
「淋しかった。だから誰でも良かったのかもしれない。みすぼらしいあなたなら自分の方が勝てる気がしたの・・・」
麗は続けて言った。
「片方乳房が無いの、だから結婚など夢だった」
麗は煙草に火をつけた。
「もう決めたよ。ここに居るって」
「結婚してくれるの」
「まだ離婚はしていないが・・別れようと思っている」
「私に恋をしてなんて言ったけれど、私の方が先に好きになったみたい」
「そんなことはないさ」
誠は麗の乳房が無いと言う事を聴いてしまい、もうこのまま捨てることはできないと考えた。
翌日誠はジーパン姿で指定の現場に行った。
「良く来たな」
昨日の人が親方らしい。
「これに着替えてみな」
作業着を貸してくれた。ヘルメットを被り、地下足袋を履いた。
「今日は見学のつもりで言われたことをやればいいから、事故には気をつけてな」
誠の言われた事は、鉄筋を加工場や現場に運ぶ事であった。
30キロから50キロの鉄筋を肩に乗せて運ぶのだ。
12月なのに汗が出た。疲れた。他の職人は平気な顔をして働いていた。
誠は父の事を思い出していた。この鉄筋工をしていたのだ。
現場が変わるたびに飯場を転々とした。友達も出来ず、こんな生活から逃げたい一心で勉強をした。
こうして自分が働いてみると、父の偉大さを感じた。生きるため、それも家族を養うために、これほどの苦労をしていたことへの感謝であった。
なんて自分は馬鹿なのだ。
妻子を捨てたのだ。詩を書くために。
1日の仕事が終わった。誠は詩を預けてあるコインロッカーに立ち寄った。
全てを袋に入れた。文房具店で段ボールを買い、カウンターで詩を入れた。
ガムテープでふさぐと何かが吹っ切れた。麗の部屋には持ち込みたくなかった。
宛名を書き妻に送った。
あなたの言葉が本当だったのかもしれません
詩など書いたところで何にもならなかった気がします
ただ、ただ
思うことは無駄ではなかったと思うだけです
きっとあなたは憎んでいるでしょう
恋しいなどと思わないで下さい
もし思ってくれるなら
このダンボールを開けてください
あるいは燃やして下さい
あなたの心に永久にのこるか永久に消えるかあなたが決めてください
僕の体はこのダンボール箱です。
僕の心はこの中に入っています。




