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空白ノ翼  作者: 堕天王
過去と罪
32/35

隊長を求めて

 晃は夢を見た。

 顔がはっきりしない男女と共に生活している――そんな夢。そこで彼らは、晃の事を『隊長』と呼んでいた。

 起きた時、晃は胸の苦しさを覚えた。

 自分に部下がいたことは、覚えている。

 しかし、彼らの顔も名前も、今は思い出す事が出来ない。霧に覆われたように、すべてに靄がかかっていて、曖昧だ。

 彼らは今どうしているのだろうか。

 その事を思うと、鬱屈した気持ちとなった。



 九月の中旬。

 この年は、例年に比べると秋が早く訪れ、すでに少し肌寒さを覚える日々となっていた。

 藤堂櫻は、氷女沙夜を自宅前の坂道まで送った後、家路に着く。八月に、まだ鬼神会の死大王だった頃の晃に襲撃されて以来、櫻は沙夜を護衛するようになっていた。あの時の反省点の一つである武器の所有については、結局学校に武器を持ち込む許可が下りなかった為、護身用の小刀のみとなった。その代わり、学校や通学路などには、密かに武器となるものが置かれており、結界で一般人には見えないよう処理されている。今の所、それが精一杯であった。

 椿のように式神がいれば、式神が武器を持っていてくれるため、こういう心配は不要となる。しかし、誰しも式神を持てるわけではない。むしろ、三鬼も契約している椿は、特例中の特例と言っていい。

 ないものねだりをしてもしょうがない。

 しかし、小刀一本だけではやはり不安である。何かしらの対策を練らなければ――それは、櫻の最近の悩みであった。

 氷女沙夜の自宅前の坂道から、櫻の居宅である橘神社までは一本道である。

 櫻町を周回している県道に沿って歩けば、おおよそ二十分程度で到着する。

 ほとんどが住宅街。店は、坂道の近くにコンビニが一件あるだけである。

 十分ほど歩いた所で、櫻は足を止めた。道の真ん中に、男が立っていたからだ。年の頃は、十代半ばと言った所か。

 普通なら、何食わぬ顔で横を通り抜ければいい。男は道の真ん中に陣取っているが、だからと言って、道幅全てをカバーしているわけではない。

 櫻が足を止めたのは、男が殺気を放っているから。

 鞄の中にある小刀を手に取ろうとしたその瞬間だった。

 風が吹いたと思ったその刹那には、鞄が空高く吹き飛ばされていた。

 男が瞬く間に踏み込み、櫻の鞄を蹴り飛ばしたのだ。

 男の眼光を目の当たりにする。

 常軌を逸した狂気の光。櫻は、身の毛がよだつ思いをした。

 間合いを取るため、一歩、二歩と後ろに下がる。

 男の右足が、それを追撃して来る。

 顔を狙ってきたため、左腕でガードする。

 重い衝撃。腕が持って行かれそうになるのを、なんとか踏ん張る。

 右足が下がったかと思うと、左足が来る。

 ガード。

 左足、下げたと思ったら、角度を変えて再び左足。

 ガード。

 次は、右足。

 ガード。

 絶え間なく続く。変幻自在に動く両足の乱舞は、まるで蛇のよう。

 櫻は焦っていた。

 剣術には自信があった。しかし、体術は触り程度の技術しかなかった。それには理由がある。除霊士は、基本的に武器で戦う。妖相手に組手なんてしない。相手が霊体だった場合、そもそも組めない。

 目の前の男の攻撃に、櫻は有効な手段を現状持ち得ていなかった。

「桜の精霊よ!」

 櫻の言葉に呼応して、大地から湧き上がる桜吹雪が、視界をピンク色に染め上げる。

 櫻の特殊能力は、『桜の精霊に愛されている』こと。季節に問わず、櫻の言葉に呼応して、桜の花びらを舞い上げてくれる。桜の花びらは、霊力を帯びており、肉眼も霊視も妨げる。

 櫻は大地を蹴った。

 上空へ。霊力を足に纏わせ、二度、三度と空間を蹴りあげて、三十メートルほどの高さまで昇る。

 とりあえず距離を取って、仕切り直さなければならない。

 両腕が、度重なるダメージで鈍い痛みを訴えている。

 男が誰なのか。そんなのは後回しである。この状況を切り抜けなければ、待っているのは『死』だ。

 橘神社が見える。

 あそこまで行けば、勝彦も椿も水及も――晃もいる。

 このまま空を飛んでいければいいが、残念ながら櫻は空を飛べない。一旦、どこかに着地して、後は陸路だ。

 着地する場所は、慎重に選ばなければならない。その前に、相手の出方も確認する必要がある。

 男は、跳んで来ていた。

 凄まじい速度。まるで、弾丸のように跳んでくる。

 男は櫻の真横を通り抜けた後、空中で姿勢を変え、落下しながら櫻を蹴り飛ばした。

 なんとかガードした櫻であったが、そのまま地面まで落下してしまう。

 櫻が落ちた場所は、橘神社とは反対側であった。

 櫻神社の境内近くの林。落下直前に霊力の壁を展開した結果、地面に大穴が開いた。

「なによあれ……!」

 悪態と共に息を吐く。

 全身がバラバラになりそうな痛み。なんとか体を起こして、大穴から這い出る。

 このままでは勝てない。殺される。

 周りを見渡す。場所を特定するのが先決。しかし、周りを見渡しても木々が生い茂っているだけで、目印らしきものがまるでなかった。

 どちらに進むべきか。決めかねていたその時、櫻は音を聞いた。

 それは、金属を叩いた時に出る澄んだ音色だった。

 無性に心が引かれた。

 櫻はほぼ無意識に、進むべき道を決めていた。

 林からは、すぐに出る事が出来た。

 櫻神社の参道。石畳がまっすぐ奥の本殿に繋がっている。

 櫻は、迷うことなく本殿を目指した。

 心を支配する焦燥感。

 ここであの男が現れたら、今度こそ逃げきれない。

 こんな所で死にたくはない。

「やっと……兄さんに出会えたのに……!」

 死にたくない。こんな所で、死んでなるものか。

 櫻は、その思いに突き動かされ、体に鞭を打って進み続けた。

 もうすぐで本殿に辿り着ける。その時になって、男が参道に現れた。

 一気に間合いを詰めて来た男は、右足で櫻を蹴りあげる。櫻は何とか反応してそれをガードしたが、体躯が浮き、そのまま本殿まで吹き飛ばされた。

 木枠の扉をぶち破り、本殿の中を転がる櫻。

 男は体を沈めている。最後の一撃を加えるつもりだ。

「隊長は……返してもらうよ。だから、お前は死ね」

 男の瞳により強い殺気が纏う。

 その時、櫻の耳に先程よりもはっきりと金属音が響いた。

 本殿の奥に、一振りの刀が奉納してあった。

 櫻は、なんとか身を起こして、その一振りの刀を求める。

「リミッター解除」

 男が、地面を蹴りあげ肉薄して来る。

 必死に刀に手を伸ばす櫻。

 このままでは、櫻の手は届かない。

 男が、本殿の床に着地して――その瞬間、床がバキッ! という音と共に割れた。

「なっ!?」

 左足が、床を割ってはまってしまう。その間に、櫻は刀を手にしていた。

 振り向きざまに櫻は、刀に霊力を纏わせつつ抜刀した。

 上から下に、袈裟斬り。

 刀の軌跡が霊力を帯び、青く煌めく。刃は、男には届いていなかったが、刀が纏う霊力は男を捉え、床を吹き飛ばしながら、諸共に男も吹き飛ばした。

 肩で息をする櫻。

 本殿の床は、まっすぐに抉り取られていた。

 男は、参道まで吹き飛ばされており、ぐったりと横になっている。

 男を退けたことによって、少し余裕が出来た櫻は、この時はっきりと悟っていた。

 この男は、晃が鬼神会に居た時の部下だ。

 晃を取り返しに来たのだ。

 この男をどうするべきか。

 晃と同じなら、この男もまた鬼神会の人体実験を受けている被害者だ。

 壊れた本殿から出る。

 そこで櫻は驚き、再び刀を構えた。

 櫻と男の間に、別の男がいつの間にか立っていたからだ。

 櫻を襲って来た男と違って、どこか寂しい瞳をしている。殺気は纏っていなかったが、このタイミングで出てきて、味方のはずがない。櫻は、警戒を強める。

 新しく出て来た男は、櫻を襲って来た男を抱きかかえた。

「隊長に伝えて欲しい。僕たちは、元気です。誰も、あれから欠けたりはしていない」

 櫻は、無言で頷く。すると、男は安心して儚い笑みを浮かべた。

 そうして男は、櫻に背を向けて、去って行った。

 櫻は、それを追撃する事は出来なかった。そんな体力がなかった事もあるが、それよりも分からなかったからだ。

 あの二人が、本当に敵なのか、どうなのか。



 最初に櫻を襲った男の名は、ショウ。

 ショウを助けに来たのは、副隊長を務めていたセイ。

 ショウは、施された処置によって、『櫻を殺せば、晃が帰ってくる』と刷り込まれていた。これは、鬼神会による晃への圧力だった。

 セイは、そんなショウの監視役であり、新たな処置は受けていなかった。そのため、櫻への強い殺意を抱いていなかった。



 二人が姿を見せた事。櫻を襲った事。それを知った晃は、鬼神皇の意思を明確に理解した。

『お前の部下たちは、俺の手中にある』

 顔も思い出せない、部下たち。それだけに、申し訳なく思う。

 晃は、強く思った。

 自分の部下だった人たちを、なんとしてでも助け出さないといけない。

 鬼神皇もまた、それを誘っている。

 晃の中の漠然としていた鬼神皇への憎しみは、この時はっきりと形を成して、強い意志へと昇華された。

 それもまた、鬼神皇の思惑通りであろうという事を――晃は、同時に感じ取っていた。



 櫻への襲撃は、強い衝撃を与えた。

 橘家本家のある櫻町は、感応士の目が一番届く場所。さらに、氷女沙夜襲撃の反省を経て、町には町に入って来た人を識別する結界が張り巡らされていた。この結果、櫻町を訪れた剣舞の久遠が、櫻駅を出た所で捕捉されている。

 今回、鬼神会から二人も櫻町に侵入して来た。しかし、感応士も結界も二人を認識できなかった。さらに、櫻の交戦記録を辿っても、誰と戦っていたのか、それが分からなくなっていた。

 感応士の目が欺かれていたのだ。

 一体、どのような手段を用いたのか。

 現状分かっているのは、鬼神会に感応士や結界の力は及ばない――という、絶望的な答えだけだった。



 櫻町に隣接している橘湾。そこに一隻の漁船が浮かんでいた。鬼神会が所有する漁船である。

 甲板には、鬼神皇が仁王立ちしていた。

 まっすぐと櫻町がある方を睨む。

 小さなボートが合流し、ショウを抱えたセイが上がってくる。

「戻りました」

 鬼神皇は、一瞥もくれない。

「休め。良くやった」

 セイは、頭を下げて船の中に入っていく。

「思兼。どうだ?」

 鬼神皇の声は、舩の中に居る思兼にすぐに届く。思兼の感応士の力によるものである。

『正常に稼働中です。特変ありません』

「実験は成功だな。引き上げるぞ」

 鬼神皇は、今回二つの事を確かめていた。

 一つは、橘家のセキュリティーの認識について。

 そもそも除霊屋は、最先端技術を積極的に取り入れている九藤家以外は、旧態依然とした頭の固い連中で運用されている事が多い。彼らの『他人とは違う』――つまり、霊力を利用できることによる自負が、万能感という錯覚を起こさせていた。

 それは、橘家を中心にした九州連合も同じである。

 水及と勝彦が、感応士の能力の向上がより重要であると示し、電子機械を組み込んだ新しいシステムを構築したが、彼らの進歩はそこで止まってしまった。

 除霊屋の中では、他よりも優位に立っている。その錯覚が、傲慢さが、思考を停止させているのだ。

 だから彼らは、人間は陸を伝ってくる――という考えにとらわれ過ぎる。船でやって来るとは考えないのだ。

 以前、晃が櫻町に侵入した時も、海からだった。

 今回再び海からの侵入を試みたが、橘家はこれに対して何の対策も講じてはいなかった。

 橘家の考え方は、その程度――鬼神皇はそう判断した。

 もう一つが、思兼を中心に構築した『感応波干渉システム』の性能の確認である。

 人間レーダーとも呼ばれる感応士。周囲の事象を観測するその力は、感応士が放つ感応波が触れたものを観測するというものだ。

 感応『波』であれば、それは電『波』と同じように、干渉することも可能ではないだろうか。

 その考えから生まれたのが、『感応波干渉システム』である。

 今回のシステムによって、櫻町を観測していた感応士の認識を狂わせることに成功した。

 二つの事柄が滞りなく確認できた。

 橘家がそれらに気付くのはいつになるだろうか。

 そもそも気付けるのであろうか。

「なんにせよ、今のままなら仕事がやりやすい」

 鬼神皇は、そう嘲った。



 櫻が襲撃された日から一夜明けて、昼過ぎ。

 櫻は、水及の所へと赴いていた。

 椿と仮面を付けた晃も同席していた。

 水及の前には、櫻が使った刀が置いてある。櫻を保護した時、共に回収されたのだ。

「この刀は、お前の物だ」

 水及は、刀を櫻に手渡した。

 櫻は、戸惑いながらも両手で受け取る。

「えと……奉納されていたものを、私がもらってもいいのでしょうか?」

「いつかはお前に託すつもりだった。ただ、それが少し早まっただけだ。その刀の銘は、『櫻の一刃』。櫻神社は、元々その刀を守るために私が建立したものだ。そして、その刀の本来の持ち主の名は、櫻。お前の前世だ」

 転生体。ようするに生まれ変わり。

 櫻は、自分の前世がかつてこの櫻町を治めていた領主である櫻姫であるという事は知っていた。ただ、それは知っていただけに過ぎず、他人事のように感じていた。

「櫻は、自分がいつか転生するであろうことを知っていた。だから私に『櫻の一刃』を預けた」

「水及様、『知っていた』とはどういうことなのですか?」

 椿が訪ねる。

 水及の視線が、晃へと注がれる。

「全ては、晃に繋がっている。櫻だけではない、椿、お前もだ。この話をするのは、もう少し先になるかと思っていたが、どうやら今のこの時のようだ。今から昔話をする。それを聞けば、疑問に思っている事は晴れる。その刀が、櫻の手になければならない事も、分かる」

 水及が語る。

 それは、四百年前の話――。



 物語は、一人の男が宇野国(現在の櫻町)に転がり込んできた事から始まった。

 男の名は、佐助。晃の前世である。彼は、鬼神皇に追われていた。彼が何故鬼神皇に追われていたのか、水及は知らない。

 宇野国に逃げて来た所で、佐助は鬼神皇に捕まりかけた。それを妨害したのが、橘家の椿。椿の前世である。

 この時、橘家の椿はただの一撃で鬼神皇の右腕を斬り飛ばし、鬼神皇を退けてしまった。

 鬼神皇は、こう公言している。

『かつて、俺に恐怖を抱かせることが出来たのは、三人だけ。赤き瞳の巫女、山神の歌巫女、そして橘家の椿』

 鬼神皇はこの時、勝てない事を悟って早々に逃げたのだ。

「佐助の両腕には、晃と同じように阿蛇螺が埋め込まれていた。彼は、独学とはいえ妖と戦えたため、椿の手伝いをするようになった。あの頃は、橘家……九州分家と呼ばれていたが、奴らと宇野国は対立関係にあった。橘家は、本州から侵略してきたも同然。恭順を示さない除霊屋は、全て滅ぼした。そんな奴らの中に、内側から反発していたのが椿だった。彼女は、宇野国の領主であった櫻姫と手を組み、佐助を巻き込んで色々とやっていたらしい。私はその時、丁度休眠期だったからな、この頃の話は佐助や櫻から受け売りだ。私が目覚めたのは、佐助が宇野国にやってきて四年が経った頃だった。いつのまにか橘家なんていう連中が根を張っているし、根絶やしにしてやろうかと思ったが、その時はそれどころではなかった。出雲大社の近くで、八岐大蛇の封印が解けそうだとかいう話が舞い込んできて、私もそれに参加することになった」

 八岐大蛇の再封印に向かったのは、水及とその僕である狼命と、狼命の兄二人、それと櫻の紹介で椿と佐助、さらにもう一人――。

「名は、ベルゼブブ。お前たちも名前ぐらいは聞いたことがあるだろう?」

 晃は分かっていなかったが、椿と櫻は完全に思考が停止していた。

 蠅の王ベルゼブブ。悪魔の中でもかなり有名な名前である。その悪魔の名前が、何故ここで出て来るのか。

「詳しい話は私も知らんが、椿から聞いた話では、西洋から逃げて来たらしい。ボロボロになって、浜に転がっていたのを助けたとか言っていた」

 八岐大蛇の再封印は滞りなく終わったが、問題はその後起こった。

 帰路に着いた一行が、襲撃を受けたのだ。

 襲撃したのは、橘家の九州分家だった。

 第一標的、水及。

 第二標的、椿。

 第三標的、ベルゼブブ。

 水及たちは、これを撃破した。

「この時、私は狼命の兄二人を失った」

 帰る場所を失ったと悟った椿は、ベルゼブブが東に向かうと言い出したため、それに付いて行った。

 水及と狼命と佐助は、櫻町を目指した。

「このままで済ますか。皆殺しにしてやる、と息巻いていたね」

 しかし戻った水及たちが見た光景は、ただの焼野原だった。

「南から進軍してきた島津の連中に宇野国は滅ぼされていた。橘家の九州分家も潰され、生き残った連中は本州に逃げていた。復讐する相手は、残っていなかった」

 その後、戦火を逃れていた櫻姫と再会を果たす。

「まぁ、その後色々とあって、私が橘家を復興させ、小泉家、水無月家、神山家と作って、これを守らせた。椿がいつ帰って来てもいいようにと思ったのだが、彼女が東の地で亡くなっていた事を知ったのは、全ての準備が整った後だった」

 佐助と櫻が、齢を重ねた頃、水及は二人に話した。

「佐助の両腕の阿蛇螺は、魂に刻まれています。あなたは、死後転生させられる可能性が高いと思います。私は、私の伝手を使って、櫻、あなたも佐助が転生した際、近くに転生させるように手配しておきます」

「そんな話をしたのは私だというのに、佐助が転生しているのに気付くのが遅れて、鬼神皇に先手を打たれてしまったのだから、本当に酷い落ち度だ。話を戻すが、その時に、私は『櫻の一刃』を預かった。だから、それを今返した。佐助を転生させたのは、日本神族会だ。奴らの意図までは理解できないが、橘家の椿も転生させた以上、この時代で鬼神皇をお前たちに討たせるつもりなのだろう。前世から続く因果。どう受け止めるかは、お前たちに託す」

 『櫻の一刃』は、櫻の手に委ねられた。

 黙して語らない刀。前世の櫻は、どんな思いをこの刀に乗せていたのだろうか。

 なんとしてでも、鬼神皇を倒す。

 兄と一緒にいるためには、それしか方法がない。

 櫻の強い思い。

 実は、水及は一つ、晃と櫻に伝えなかったことがあった。

 何故、前世の櫻が『櫻の一刃』を水及に預けたのか。

『愛する夫を転生しても守りたい』

 佐助を思う心。

 形を変え、今その思いを櫻が受け継いだ。

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