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空白ノ翼  作者: 堕天王
過去と罪
31/35

思い出を

 闇夜を切り裂く一匹の鳥。それは、胴体こそ鷹のそれに似ていたが、顔は皺が多く刻まれた老人のものだった。

『お前ら如きに捕まるものかよ! 悔しかったら、飛んでみろや! ばぁ~~~かぁ!!』

 追いかけているのは、椿。妖の挑発に対して、眉根一つ動かさない。完全に無視していた。

 懐から術が書かれた札を三枚取出し、空へと放つ。妖は、それを左に旋回して難なくと避けると、口汚く罵声を浴びせて来る。

「晃君。予定通り、そちらに追い込みます」

『了解しました。準備は出来ています』

 妖の進行方向には、三つの塔を束ねた大きなマンションが建っていた。

 マンションは、三つの空中庭園によって連結されており、現在中央の空中庭園からはブルーシートが垂れ下がっていた。空いている空間は、中央よりも上の空間と、一番上の空中庭園の上のみ。

 その中央の空中庭園に晃は立っていた。

 飛来する妖。妖は、鳥の姿をしているがとても夜目が利くようで、晃が視認するよりも早く彼の姿を確認していた。

 自分が、晃の方へと誘導されたことにこの時妖は気づいたが、同時に不敵な笑みを浮かべた。速度を上げ、中央の空中庭園の天井ギリギリ、壁際ギリギリの四隅の端へと突入し、晃を馬鹿にしたように見下ろす。

 次の瞬間、バチィ! と凄まじい音が鳴り、妖は奇声を上げて空中庭園に落下した。

『ぎっ……えっ……あっ……? なん……?』

 妖は辛うじて生きていたが、完全にその姿は、酒を飲み過ぎて前後不覚に陥っているそれであった。

 空中庭園には、罠が張ってあった。別に晃が妖を待ち受けて、それを迎撃するなんていう作戦ではなかったのである。

 空中庭園に蜘蛛の巣のように張り巡らされていたのは、晃の阿蛇螺。阿蛇螺を通して、電流が流されていた。この電流は、阿蛇螺自体が発生させているものである。そこにまんまと妖は突っ込んだのであった。

『晃さん、リミッター解除をしてください』

 インカムから姫子の声が届く。ここでリミッター解除をする必要はないが、姫子はずっとリミッター解除状態のデータを欲しがっていた事を、晃は知っていた。

「リミッター解除」

 なんとか体を持ち上げて、体勢を整えようとしていた妖に一気に肉薄し、ボールを蹴るように、勢いそのまま右足で蹴り飛ばす。妖は、マンションの外壁に激突して押し潰され、そして断末魔をあげる余裕もなく霧散した。

「終わりました」

『お疲れ様。すぐに行くから、待っていて』

 晃は、大きなため息を吐いて、その場にドカリと座り込んだ。

「ちょっと!」

 十分ほどして、上の空中庭園で待機していた菖蒲(あやめ)がやってきた。晃は、けだるそうに視線を送る。

「あっさり倒してしまったら、私の出番がないじゃん! 馬鹿なの?! 馬鹿は、死ね! あぁ~もう! どうして、こう空気を読めいかなぁ。やっぱり、ゴミカスはゴミ……ふぎゃ!」

 悪態をついていた菖蒲の顔に、白い符が勢い良く飛び込み爆発した。

「空気を読めないのは、お前の方だろうがぁ!!」

 そして、椿の飛び蹴りを腹部に喰らって、転がって行った。

「晃君、大丈夫?」

「はい」

「姫子さん、今のタイミングでリミッター解除は必要だったのですか?」

『どうしてもデータが欲しかったんです。ごめんなさい。でも、これで十分。ありがとうございます』

 椿は釈然としない顔をしていた。

 次の日の夜、晃と椿は、姫子に呼び出されて診察室を訪れた。

「まず最初に、来週の月曜日の朝、私はユグドラシルに帰ります」

 突然の事に、二人は目を(しばた)かせた。

「後任の者への引き継ぎも終わっています」

「そうか。短い間だったけど、色々とお世話になりました」

「お世話になりました」

 椿の言葉に、晃が続ける。

「私からお話しできることは、あと一つだけです。それが私の気がかりで、他はよっぽどのことがない限りは、問題ないかと思います」

「もしかして、この間のリミッター解除?」

「はい。どうしても、あと一度だけリミッター解除のデータが欲しかったのです。一度目の説明の時は、データが不十分だったのでお話をしなかったのですが、晃さんの心臓の近くには、全く動いていない、明らかに人工物だと思われる卵形の装置が埋め込まれています。大きさとしても、少し卵よりも大きいぐらいですね」

 姫子は、両手で大きさを示す。

「普段、全く動いていません。リミッター解除に関わりがあるのかと思い、一度目の九藤菖蒲との戦いの時、この間の戦いの時の二度に渡ってモニタリングを行いましたが、リミッター解除の時でさえ、全く動いていません。現状、何を成すための装置なのか、全く分からないというのが現状です。何かしらの不具合で動いていないのか、それとも何かしら別に動く条件があるのか。全く分かりません。ただ、動いていない以上、体には何の影響もありません」

 晃は、自分の左胸に右手を乗せる。

「ごめんなさい。結局、最後まで分からないという事を伝えるしかありませんでした。私はここを離れますが、何か異常がある時は、勝彦様からいつでも連絡を取る事が出来るようにしておきますので」

 こうして、最後のムンテラが終わった。



「観光ですかぁ?!」

 素っ頓狂な声を上げた姫子。

 ユグドラシルへと戻る事になった彼女に、勝彦が『せめて一日だけでも遊んで帰りなさい』と告げたからだ。

「えっと……」

「俊之殿には、許可をもらっている」

 姫子は次にユヴァイラに視線を向ける。ユヴァイラは、笑顔で頷いた。

「そっか……なら、行きたい所があります」

 姫子は、本当に嬉しそうに微笑んでいた。


 姫子がユグドラシルに戻る前日。その日は日曜日。彼女が『行きたい所』は、水族館だった。

 姫子に同伴したのは、ユヴァイラと晃と椿。姫子は車椅子に乗り、それをユヴァイラが押している。

 姫子は、常人と比べて体力が半分もない。それは、彼女の魂――生命エネルギーの量が、著しく欠如しているからである。これは、昔の事故の影響であった。

 姫子の両親は、ロストテクノロジーの研究者だった。遺跡の発掘中に誤って過去の霊体兵器を起動させてしまい、姫子の両親は魂を食われて絶命。姫子も襲われ、その魂の半分を破壊されてしまった。この時、姫子の両親が所属する遺跡発掘のメンバーを確保するために突入していた沢村俊之によって助けられ、治療を受け、そのままユグドラシルへと加入する事となった。それは、魂が半分しかない姫子は物質的にも霊的にも不安定であり、一般社会で生活することが困難であったためである。

「リュウグウノツカイ! これが……! 長いです!」

 砂浜に打ち上げられていたリュウグウノツカイの標本に驚き、イルカショーに目を輝かせ、大きな水槽を遊泳する魚たちの姿に感動する。

 水族館に来るのが久しぶりの椿と初めて訪れた晃も、姫子と会話を弾ませながら、歩いた。

「私、ここに来られて良かったです」

 姫子は、共に水槽を見上げていた晃に声をかける。

「晃さんや椿さんに会えて良かった。とても楽しかったです」

「僕も……楽しかった」

 姫子は、涙が溜まる瞳を静かに閉じた。

 楽しい思い出を抱え、晃たちに見送られながら、月曜日の午前中、姫子はユグドラシルへと帰って行った。

 その日の午後、地下の診察室にて。

「この子が、後任のリリーだ」

 久しぶりに姿を見せた佐々木瑠々(るる)は、黒のスーツ、黒のズボン、そしてサングラスを付けた、小柄な少女を紹介した。

「リリーです。よろしくお願いいたします」

 ぺこりと頭を下げる。

「ちょっと待って」

 晃が挨拶を返そうとした所で、椿が緊迫した面持ちでストップをかけた。

「その子、人間じゃないでしょ?」

「やっぱり一目で分かってしまうか」

 晃は、改めてリリーを見ても分からなかった。除霊士としての経験の差であろう。

「別に隠すつもりはなかったのだよ。彼女は、淫魔だ」

「い、淫魔ぁ?!」

 椿が飛び上がる勢いで驚いている。

「い、淫魔って……そ、その……」

「エロイ奴だな。エロエロじゃ」

 瑠々は、椿をからかっている。

「まぁ、安心せい。この子のサングラスには、彼女の能力を抑える効果がある。むやみやたらと、人から精力を奪ったりはせん。色々と事情があってな。少し前から、ウチで預かっておる。ただ、晃君の健康状態をチェックするだけなら私がやっても良かったのだが、どうせなら前線でサポートが出来る奴の方がいいだろうと思ったのだよ。これからの戦いのことも考えると、彼女の力はお前たちの力になる」

「よろしくお願いいたします」

 晃は、握手を求める。リリーは、少し戸惑いつつもその手を取った。それを見て、椿は諦めた。

 リリーは、寡黙だった。仕事は淡々とこなす。晃や椿に対しては、一定の距離を常においているようであった。一週間もしない内に、椿はリリーへの評価を改めた。同時に何故こんな子が淫魔となったのか、疑問に思った。しかし、さすがにそれを聞く事は出来なかった。リリー本人も、必要最低限の事しか話さないからだ。

 踏み込んでこないし、踏み込ませない。

 そんな雰囲気であった。



 月曜日から降り出した雨は、火曜日には上がり、その雨は夏の暑さを一気に吹き飛ばした。二日ぶりの晴れの日、晃は単独で商店街へと訪れていた。社会復帰のための、プログラムの一環である。形式としては単独で買い物――となっているが、晃の近くには椿の式である鈴の姿があった。

 椿の式は、三鬼存在する。

 由紀子の赤鬼暴走時に前線に立った、八咫烏(やたがらす)韋駄天(いだてん)

 そしてもう一鬼が、今回の鈴である。姿見は、おかっぱの童女。一見すると座敷童である。大きさは、四十センチ程度とかなり小さい。赤い着物と、胸元に少し大きめの鈴が付いている。この鈴が、名前の由来である。彼女には、他の二鬼と違って戦闘能力がない。その代わり、傷を癒す力を持っている。

 晃の後ろからふわふわと漂いながら付いてきているが、一般の人には見る事が出来ない。気配を消す事が出来るのは、妖の得意技である。

 現在晃は、商店街の入り口に立っていた。商店街までは、橘神社の石段を降りて、左に進めばすぐに着く。

 今回晃が買いに来たのは、ジュースである。種類は問わない。商店街の入り口付近にあるスーパーで、ジュースを買って帰って来るだけ。簡単すぎるような気もするが、椿なりに考えて色々と配慮した結果である。

 晃自身も、この程度の本当に子供のお使い程度の事は難しくないと考えていた。スーパーも目の前。後は、ジュースを選んで帰るだけである。

 その時であった。

 左手を誰かに掴まれたと感じた瞬間、景色が一変した。

 目の前に、海が広がっていた。幾重にも重なる波の音。地平線の彼方に島が見えた。

 晃はいまだに自分の左手が誰かに握られている事に気づき、それを振り払って、跳んで、大きく距離を開けた。

 晃の手を握っていたのは、年の頃は同じぐらいの黒い髪の少女だった。線は細いが、体躯に無駄がない。武器らしき物は持っておらず、殺気も放っていなかったが、晃は身構えた。まるで知らない相手である事。それと、何が起こったのか分からない事。それらを踏まえての行動であった。

「誰?」

「あなたを勧誘しに来ました」

 少女は、晃の問いに答えなかった。

「鬼神皇を倒したいなら、私たちと来るべきです」

 晃は、無言で返す。どう答えていいのかというよりかは、呆れていた。

 勧誘というが、名前も名乗らないし、笑顔の一つもない。とても勧誘しているようには思えない。ただ、『鬼神皇』と口にしている以上、こちらの事情は知っているようである。

「無視ですか?」

「君と一緒に行く気はない」

 それだけは絶対である。

「やっぱり無理だよ、勧誘なんて」

 新たな少女が現れる。十代前半程度の小柄な少女。髪型は小さなツインテールで、その見た目はとても愛くるしい。堤防の上に居たその子は、晃と少女の間に割って入って来た。

「ちょっと双葉!」

「半殺しにして連れて帰ればいいじゃん。楽勝!」

 双葉と呼ばれた少女の前に、黒い球体が二つ姿を現す。大きさは手の平程度。黒いと表現したが、光沢やムラがあるわけではない。まるで底なしの穴のような黒。双葉の周りをぐるぐると回る。

 晃は直感した。

 このままではやられる!

 だから、一気に攻勢に出た。

「いい判断。でもね、遅すぎちゃうんだよ、それじゃーねぇ!」

 双葉が放った黒い球体は、晃の体を挟むように移動し――次の瞬間、晃は地面に叩きつけられていた。

「なっ……!?」

 体が一歩も動かない。上から何かで押されているようであった。しかし、晃の体の上には何も乗っていない。ただただ、黒い球体がくるりくるりと周回しているだけである。

「さぁて、どこまで耐えられるかな。下が砂なのが問題だけど……あぁ、そうか、固くすればいいか」

「やめなさい! ここまでしていいとは言われていない!」

「鬼神皇がこいつにどんな処置を施したのか、調べるには連れて帰るのが一番だよ。大丈夫大丈夫。怒られないって」

 晃が地面を蹴った。二人が話をしている間に、リミッターを解除したのだ。黒い球体が周回している領域を抜けると、急に体が軽くなった。阿蛇螺を展開し右の拳に巻き付け、双葉を殴りつけようとしたその瞬間、晃は再び地面に叩きつけられた。

「驚いたよ。まぁ、こういう事もあるかもしれないと思って対応しておく所が、大人の女性よね」

 双葉の能力は、『重力』を操る事。彼女が放った黒い球体が、双葉の力の根源であり、この黒い球体は、重力を任意に発生させることが出来るのである。晃の体が再び地面に叩きつけられたのは、双葉があらかじめ地中に黒い球体を埋め込んでいたためである。

「じゃ、さようなら」

 双葉の右手の平が晃へと向けられる。

 ――何も起こらなかった。

「あれ? どうして!」

「双葉!」

 少女の声。双葉の姿が消えたかと思うと、その場に無数の赤い羽根が突き刺さり、爆発する。

 少女と双葉は、堤防の上に居た。二人の視線の先には、無貌の仮面をつけた小柄な存在が空に浮いていた。一対の真紅の翼が翻る。

「なんか出た!」

 双葉は、喜んでいるようだった。

『我は守人(もりびと)。帰れ』

「守人!? 双葉!」

 今にも飛び出そうとしている双葉の頭を少女は掴んだ。そして、また忽然と姿を消した。

 状況がまるで理解できない晃は、無貌の仮面を付けた天使のような存在を見上げる。

『彼女たちはもう二度と現れる事はないだろう。家に帰りなさい』

「ありがとう……ございます」

『礼は必要ない。我にとって、あれらの干渉は望む所ではない。それに、我はお前たち人類にとっての共通の敵である』

 真紅の天使は、そう残すとどこへともなく飛んで行ってしまった。

 海岸には、晃一人だけが残された。周りから気配が消え、晃はその場に膝を着いた。

 体が重い。目が回る。

 晃は耐えられなくなって、ごろりと砂の上に横になった。

 ふと思い出す。

 こういう時のために、飴を渡されていた事を。

 ポケットを漁って、飴を取り出す。包装紙を開けている途中、飴が零れ落ちてきて、無情にも砂の上に落ちてしまった。

 どうしようもない。

 助けが来るまで、ここに転がっている他ない。

 容赦なく照りつける太陽。

 少し肌寒さを覚える海風。

 波の音だけが心を癒してくれる。

 晃は、この後十分もしない内に到着した椿とリリーに助けられ、橘家へと帰る事となった。



 夜。当主の間にて、晃は改めて水及、勝彦、椿に何が起こったのかを話した。椿は先に事情を聞いていたため、その時に疑問に思った事を水及に尋ねる。

「空間転移なんていう術式があるのでしょうか?」

 晃を瞬時に違うポイントに動かした力。

 晃の証言と、その時の晃の動きを観測していた感応士のデータを照合すると、晃はおよそ一キロの距離を瞬時に動いていた。

 水及は、首を横に振る。

「空間転移は、不可能だ。手段を想像できない」

 霊力によって、火を起こしたり水を生み出したりすることはできる。しかしそれらは、霊力を使って物理法則に干渉して起こる現象である。

 例えば、火を起こすなら摩擦。水を生み出すならば、気温を下げればいい。

 空間転移は、どうだろうか。

 分子レベルに分解して運んでいるのか。

 ワームホールでも作っているのか。

 どちらにしても、物理法則に干渉して出来る芸当ではない。

「ならば、ロストテクノロジーか。勝彦、どうなのだ?」

「分かりません。聞いてみます」

「後は、赤い翼の天使か。この町に変なのがいるのは、なんとなく察していたが、『天使』だと? 一応、アイツに確認してみるか。まぁ、明らかに普通の天使とは違う気がするが」

 結局、水及にも勝彦にも分からない事だった。

 晃の試験外出は、当面延期となってしまった。椿も頭を抱える。

 次の日の朝。水及と勝彦が調べたことを、晃と椿に伝えた。

「確認した所、空間を跳躍する事は前文明時代に存在した特殊能力者のみが可能としていたとの事が分かりました。ただ、前文明人は絶滅しています。調査が必要との事でした」

 勝彦の報告に水及は渋い顔をする。

「またロストテクノロジーか。今まで見たことも聞いたこともなかったというのに、何故こうもポンポンと出て来るのか。こっちは、知り合いに確認したが、やはり『天使』ではなく『天使を模倣した何か』と思われる、とのことだった。まぁ、そうだろうと思ったがな」

 今回の事件は、この後うやむやとなっていく。

 それが、『敢えてそうなるように仕向けられた』ものであったことに、晃たちが気付く事はなかった。



 『守人』――。

 それを耳にした者達は、少々気がかりな事もあったが、それぞれ一切不干渉という立場を明確にした。

 今回の事件の首謀者であった空間転移を行う少女(名前は壱与(いよ)という)の主の名は、イザナギ=アーサイト。

 勝彦が話を聞いたのは、遺跡管理集団ユグドラシル代表沢村俊之。一切不干渉と指示したのは、俊之の体に寄生している精神体グリム=アンシェラー。

 最後に、水及が話を聞いた天鳳。

 この三人は、それぞれ前文明人である。

 およそ一万年前。

 『守人』と名乗り、現地生命体の保護を主張した、グリムガリル派のグリム=アンシェラー。

 圧倒的な力を誇る彼女に、果敢に立ち向かった、グリム派の幹部であったイザナギ=アーサイト。

 ガリル派の幹部だった天鳳。

 その戦いは、グリム=アンシェラーが撒いた『災厄』という名の人工ウィルスによって、前文明人絶滅という形で終焉を迎えた。

 再び『守人』が現れた。

 現人類も滅びの一途を辿るであろう。それに干渉すれば、再び滅ぼされかねない。

 それが分かっているため、『一切不干渉』との姿勢となったのだ。

 ただ、それぞれの思いは別であった。

 イザナギ=アーサイトは、

「下等で恩知らずのクソ猿どももこれで終わりか。わざわざ手を下す必要もなかった!」

 と嘲る。

 天鳳は、これから起こるであろうことに胸を痛める。

 そしてグリム=アンシェラーは、

「お前は、『守人』の事を知らないのか?」

『存じません』

 俊之に聞かれて、あっさりとそう答えていた。

 彼女には興味がないのだ。

 彼女の興味は常に一つだけ。

 前文明の残滓(ざんし)を一滴残らず全て消し去る事。

 新たな『守人』が現れたなんてことは、彼女にとっては些末な事でしかなかった。




 END



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