真昼の弟
夜。
夕食は、一人で食べた。
誰かが自分の体を見て落ち込んだりするのも嫌だったし、誰かと会うのも嫌だった。
今はとにかく一人になりたかった。
真昼も、私のそんな様子を察したのか、無言で夜子を一人にした。
食後。部屋で、今後のことについて考えていると、外が、騒がしくなった。
「ちょっと、あなた何なんですか!?」
と言う声が玄関から聞こえた。
そして、勢いよく、部屋のふすまが開いた。
「あ、朝日!?」
そこにいたのは、真昼の1個下の弟。宇野朝日だった。
朝日は、夜子とも仲が良く、三人で遊びに行くことも多い。そんな彼が、何故、ここに?
「夜子、それ……」
夜子の身体を見て、言葉を失った。
「こ、これは、その」
隠そうとするが、着ている服は半袖半ズボンなので、もう遅い。
「朝日、勝手に入らないで!」
後から、真昼が追いかけてきた。
「姉ちゃん、これ、どういうことだよ。何で夜子が、こんな……!」
真昼に掴みかかった朝日を見て、夜子は、はっとした。
「朝日、やめて!」
間に入り、二人を引き剥がした。
「そもそも、どうして朝日が、ここにいるの?」
そう訊くと、真昼を睨んで答えた。
「姉ちゃんが、ばあちゃんの家にいるって聞いたから、電話で祭りの様子を訊いたら、『それどころじゃない』って言われて、もしかして、夜子に何かあったのかも、って思って……」
色々気になる言葉はあったが、要するに、夜子が心配で来たらしい。
「事情はわかったよ。とりあえず今は落ち着いて、真昼は悪くない」
夜子の方から、簡単に経緯を説明した。
「ってことは、夜子は、鵺に呼ばれた、ってことか? それで、そんな身体に?」
「うん、そんな感じ……多分」
虎になった腕をさすりながら言うと、朝日は踵を返した。
「ばあちゃんに、話聞いてくる。何かわかるかも」
「待って、朝日」
腕を掴んで止めた。
「その、えっと……ここに、いてほしい、んだけど……」
夜子が目を泳がせながら言うと、朝日は頬を赤くして、「夜子が、そう言うなら」と答えた。
「じゃあ、私は別の部屋にいるから」
真昼は空気を読んで、二人だけにした。
静かになった部屋で、二人は何をするでもなく、ただ、座っていた。
「朝日、ごめんね、こんなことになるなんて」
「大丈夫だよ。俺に手伝えることがあったら、何でも言って」
「……うん」
朝日の顔を見て安心した夜子は、大きな欠伸をした。
「寝るか? 布団敷くよ、場所はわかるし」
「あっ、いいよ、自分でやるから」
夜子が止める前に、押し入れから布団を一組取りだし、部屋の真ん中に敷いた。
「こういう時は、早く休んだ方がいいよ」
「……ありがとう」
布団に潜り込むと、朝日もその横に座った。
「眠れるようになるまで、そばにいるから」
「うん……朝日、ごめんね」
「いいって、俺は大丈夫だから、まだ時間もあるし」
そう言って笑うが、夜子が言っていたのは、そのことではなかった。
「そうじゃなくて……告白のこと」
「あっ……」
それを聞いて、朝日は察した。
夜子が真昼と知り合ったのは、高校に入ってすぐ。その時、朝日とも知り合った。
当時中学三年生だった朝日の受験勉強の面倒を見てあげたりしているうちに、二人は親しくなった。
そして、朝日が高校に進学した時、夜子は告白された。
だが、夜子は、まだその返事を返していない。早く言わなければ、とは思っているが、結論が出ないのだ。
「別に、急がなくていいよ、今は、それどころじゃないだろうし」
「……」
毛布の端をぎゅっと握る。何か、言おうとするが、口が、粘着テープでも貼られているかのように動かない。
そうしているうちに、夜が更けていった―――。




