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  作者: 颪金
6/15

変化

 気がつくと、周りに人が集まっていた。

 真昼が心配そうな、どこか申し訳なさそうな顔をして夜子を見ている。

 どうやら蔵の前に倒れていたようだった。

「ん……」

 身体を起こすが、腕や身体が酷く痛んでしまい、真昼に支えてもらう事になった。


「夜子、私……」


 泣きそうな顔をする真昼。

「ごめん……」

「えっ?」

 思わず素っ頓狂な声を出してしまった。

「ごめんなさい、私が、こんな……!」

 そう言うと、真昼はついに泣きだしてしまった。

「えっ、真昼!?」

 思わず手をさしのべようとしたが、腕の感覚がおかしいことに気がついた。

 身体をよく見ると、着物があちこち破けている。

 おもむろに袖を捲ってみた。

 と、同時に、周りにいた人々が小さく悲鳴を上げた。


 そこにあったのは、虎。


 正確にいうと、虎の前足。

 もっと正確にいうと、手首から先を除いた、腕全てが虎の前足と化していた。

「えっ……?」

 まさか……と思い、脚の方も捲る。

 想像通り。足首から先を除いた脚全体が虎の後ろ足と化していた。

「これじゃあ、鵺だ……」

 夜子は、泣きそうな声で、呟いた。


「私、本当に、鵺になっちゃった……」


 ショックで、再び意識が飛んだ。


 再び気がつくと、真昼の祖母の家、泊まらせてもらっている部屋の真ん中に敷いてある布団に寝ていた。

 今度は、普通に起きる事ができた。

 襖が閉め切られた部屋。何の音もしない。

 部屋には、夜子だけ。

 先程と変わらず、ボロボロの着物を着ていた。


 夢であってほしい。

 そういう思いで、再度袖を捲った。

「……夢じゃなかった」

 勢いよく、着ていた着物を全て脱ぎ、部屋の隅に置いてある大きな姿見を見た。

 ………手足が虎になっただけではなく、身体が狸になっていた。

 そして、お尻には、長い蛇の尻尾。

 首から上と、手首から先、脚から先以外が、完全に鵺と化していた。

「そんな……」

 絶望した。

 脚も、身体も、全て、影も形もなかった。


 夜子はその場に泣き崩れた。

 声を出さずに、泣き続けた―――。


 その後、持参していた服に着替え、暫くすると、真昼と、真昼の祖母が入ってきた。

 そして、真昼の祖母から、鵺祭りのことを話された。


 昔、一年に一度、鵺が村に現れ、果物や食べ物をあげると、その村を守ってくれる、という言い伝えがあった。

 その鵺に会えるのは、村の中でも1人だけ。その人が、何も食べ物をあげなかった場合、村に災いが降り注ぐ、とも言われていた。

 会う事ができる人は、ランダムに決められ、村一番の長寿の所にも来れば、年端も行かぬ娘の所にも来ることがあった。

 しかも、かなりわがままな鵺もいるらしく、米や、果物を与えても、満足しない鵺もいた。

 そこで、村の若者と、陰陽師が手を組んで、蔵を建て、そこに鵺を封印した……と言う。


 要するに、楽をしたくて鵺を封印したのだ。


 封印された鵺は、初めは拒んでいたが、諦めたのか、次第におとなしくなった。

 そして、毎年、決まった時期に、子供を、蔵の中から呼ぶようになった……。

 鵺に会う際、供え物を持って行かない理由は、会ってから欲しい物を言い渡されるから。というのが理由だった。

 そして、供え物をあげると、鵺は蔵に戻り、村を一年間、守ってくれる。と言われていた。

 だが、最後に呼ばれてから百年。鵺はまったく人を呼ばなくなった。

 そのうち、「蔵から物凄い視線を感じる。何とかしてくれ。」と言う人達が現れた。

 仕方なく、南京錠に、目隠しとしてのお札を貼り、一年に一度、それを取り払う、"鵺祭り"と言うものができた―――。



「あの南京錠のお札は、そういう意味だったんですね……」

「ええ、そして、鵺様が最後に人間を呼んでから百二十年がたった今、夜子ちゃんが呼ばれたの。でも、まさかこんな事になるなんて……」

「ちょっと待ってください。あの着物はどういう事なんですか? なぜ、私の身体にぴったりだったのでしょう?」

「それはね、夜子ちゃんを小屋に案内した人がいたでしょう? あの人が用意した物だったの」

「えっ……どういうことですか?」

「夢に、鵺様が現れたらしくて……その鵺様に、このくらいの白い着物を作れ、って言われたらしいの」

 真昼の祖母は、手で大きさを表しながら説明した。

 一応、全て納得した。

「それで、あの……元には、戻るのでしょうか?」


 ……。


 沈黙。


 真昼の祖母も、真昼も、俯いたまま何も言わない。

「……わからないんですね、戻る方法」

 そう言うと、

「ごめんなさい……」

 真昼の祖母に頭を下げられてしまった。

 夜子には、やるせない気持ちも確かにあったが、それ以上に、友人の祖母の頭を下げさせてしまった自分をぶん殴りたい気持ちもあった。

「そんなこと、しないでください」

 夜子がそう言っても、真昼の祖母は頭を下げ続けていた―――。

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