当日
祭り当日。朝から大盛りあがりだった。蔵の周りを歩くのは、日が暮れてかららしい。
真昼が神輿に行ってる間、夜子は、神輿には興味がなかったので、行かずに、木陰からずっと蔵の準備を見学していた。
蔵の周りには、松明のようなものが大量に並べられ、かなりの大人数で作業している。
相変わらず視線は感じるものの、馴れてくれば、どうという事はなかった。
―――数時間後、辺りも暗くなりかけ、群衆も集まってきた頃。
神輿と一緒に村をまわったのであろう子供達が蔵の前に到着した。
神輿は、思いのほか小さく、小学生でも持てそうなくらいの大きさしかなかった。
それを大人4人がせっせと運んできたのでかなり滑稽で面白かったが、その中身を見て、はっと息を飲んだ。
中には、灯がともっていた。神輿が燃えなかったのが不思議に見えるくらい、神々しく輝いている。
すると、群衆の中から、長い木の棒を持った巫女が現れ、棒の先に、神輿の中にあった灯を移すと、そのまま、蔵の方に持って行った。
蔵を燃やすのか?と思ったが、それは違った。巫女は灯のついた棒で、昨日夜子が見た、南京錠に巻き付けるように貼られていたお札を焼いた。
完全に焼ききった瞬間、先程までの視線とは比べものにならない強い視線のような念を感じた。
それは、明らかにあの蔵から来るものだった。
まるで、蔵そのものが生きてるかのような、そんな錯覚に陥るほどだった。
家に戻ろうか……そう思った瞬間。
「おーい!!」
後ろから聞き覚えのある声……真昼だ。
「あっ、真昼ー!」
夜子が手を振ると、真昼が駆け寄ってきた。
「そろそろ、蔵の周りを歩くらしいから、早く行こうよ!」
正直なところ、あまりその気にはなれなかった。
でも、神輿についてきた子供達や、準備に追われている大人達は、一切視線の事には気づいてなかった。
気のせい、だろうか。
そうこうしてる間に、準備が整ってしまったので、真昼について行った。
遅めに行ってしまったせいで、夜子は一番最後になってしまった。
2周歩いた子にはお菓子が貰えるらしく、それ目当てで参加する子供も大勢いた。
そして、先頭の子供が歩きはじめた。
一周目、蔵の入り口を横切るとき、先程よりも強い、刺すような視線を感じた。思わず足を止めそうになりながらも、二周目。
蔵の前を横切る。
これが終われば……そう思い、蔵の入り口の真正面に差し掛かった―――その時。
トラツグミのような鳴き声がした。
夜子は、思わず足を止めた―――。
真昼から"鵺"というあだ名を貰った後、夜子は、自分でもよくわからなかったので、鵺のことを調べてみることにした。
『鵺……頭は猿、手足は虎、体は狸、尾は蛇で、トラツグミによく似た鳴き声をしている。』
文字だけでは解らなかった"トラツグミによく似た鳴き声"の部分は、動画サイトなどで、調べて聞いた。
不気味な鳴き声だ、と言う人もいたが、夜子はそうは思わなかった。
むしろ、綺麗で、繊細な声だと思った。
……その声が、彼女を呼んだ―――。
綺麗で繊細だ、と思った声も、その時ばかりは、不気味に聞こえた。