出発
朝七時。
何度も来たことがある真昼の家の前まで来た時、夜子は、改めてその大きさに困惑した。
だいたい金持ちと言えば、大きな門、テニスコート何個分はあるであろう巨大な庭。そして―――。
「こういう金持ちの家には必ずアレがあると思ったんだけど、真昼の家には無いんだね」
「必ずあると思わないでよ。リムジンなんて私の家には無いよ。私、キャンピングカーの方が好きだもん」
……リムジンは流石に無かったが、2人でキャンピングカーに乗って、ドライバー運転の元、真昼の母方の実家に行った。
車に乗ること三時間。
やっと到着した場所は、畑と、川と、山と、少しの民家しか無かった。
「すごいなー、まるで、別次元の世界に来たみたいだ。私がいたところは、ここまで田舎じゃなかったよ」
「こことは違って都会は山も畑も無いからねー」
なんて話をしながら、大きなキャンピングカーでは通れなくなった道を二人で歩く。
「祭りは明日から。今日は、母方のおばあ様の家に泊まってってよ。」
「いいの? 何なら、キャンピングカーに泊まれば……」
「実はね、昨日、電話で"明日、祭りが近いんで行きます。"って言ったら"泊まって行け"って言われちゃって」
「せっかくのお誘いを無下に出来ない、って事ね……」
「そういう事よ。それに、おばあ様は祭りの実行委員会の会長だから、鵺祭りの事、聞いてみたら? 何かわかるかもよ?」
「あ、そうなの? じゃあ少し聞いてみようかな」
到着した民家は、とても現代風とは呼べない、木造の三角屋根の民家だった。
入り口には、年老いた老婆が立って、手を振っていた。
おそらく、あの人が真昼の母方の祖母であり、祭りの実行委員会会長、なのだろう。
「こんにちは、鳥居夜子です」
「夜子ちゃん、こんにちは。真昼から話は聞いてるよ」
軽く挨拶をすませ、今晩泊まる部屋に通された。
古い民家とはいえ、家の広さはおそらく、その村で一番大きな家だろう。
「はぁーっ、疲れたー!!」
荷物を置きながら、夜子達は一息つくことにした。
荷物を部屋の角に置くと、真昼が提案してきた。
「今日はここに泊まって、明日、祭りに参加するんだけど……どうする? 祭り会場下見する?」
「んー…そうだね。行ってみよう」
祭り会場に向かった。
祭りの会場には、体育館くらいの大きな蔵が建っていた。
そして、その扉には、ご丁寧に大きな南京錠で三カ所も施錠してあり、そのうちの一つには、巻き付けるようにお札が貼られていた。
かなり厳重なものなので、蔵自体には触らず、蔵の周囲をぐるりと見渡して戻ることにした。
「もう戻っちゃうの? 他にも、神輿が通る場所とかあるのに……」
「いや、もう帰るよ。気になっていたのは蔵だけだし、それになんか……」
「なんか?」
「視線を感じる、って言うか……」
民家を出た時から、特に、蔵の周囲。とてつもない視線を感じる。
「……多分、村の人たちが夜子を見てるんじゃない? 他の町から人が来るなんて珍しいし」
「そうかなぁ」
「多分そうだよ。それじゃ、帰ろうか」
真昼に促されて、家に戻った。