誘い
学校が終わった。今日は終業式。
明日から夏休みだ。
「鵺ーっ」
学校を出た時、親友の真昼が声をかけてきた。
「夏休みだね!どっか遊びに行こうよ!」
「そうだねー。たまには遠い田舎でのんびりしたいなぁ」
夜子が通う学校は、ごく普通の公立高校だが、町中にあるため、彼女はあまり好まなかった。
中学までは、田舎育ちだったため、始めて見た都会の光景に、最初は驚きっぱなしだった。
都会にある高校へ通うのに、右も左もわからなかった夜子を支えてくれたのが、真昼だった。
真昼は、地元じゃ少しは名のある企業の社長令嬢なので、いわばお金持ち。
だったら私立に通えばいいじゃん。なんて言う人もいるらしいが、真昼は金持ちの娘でも、多少、物をケチる癖があるので、「お金もったいないから公立に通いたい」、と、わざわざ親にねだったのだ。
そのおかげで、夜子と真昼は出会えた。だから、夜子は、ある意味では、その決断に感謝している。
「田舎かぁ……よかったらさ、私のお母様の実家、来る?」
真昼の母の実家は、実はかなり田舎。それこそ、山と川と畑しかなさそうな。真昼の母は、田舎育ちから金持ちの嫁になったのだ。
「実家?」
真昼の突然の言葉に、夜子は思わず聞き返した。
「そう、実家。ちょうど向こうで夏祭りがあるんだ」
「へぇ、どんな祭り?」
そう訊くと、真昼は待ってましたと、言わんばかりに、ニヤリと笑いながらこう言った。
「鵺祭り」
「………何それ?」
「鵺にはぴったりだと思うよ?」
ちなみに、鵺というあだ名を考えたのは真昼。
「確かにぴったりかもしれないけど、具体的には何するの?」
「うーん………村の中を、神輿担いでまわる、とか」
「何それ、普通じゃん」
「私も、よく知らないのよ。確か、蔵……」
「蔵?」
「そう、蔵だった。蔵の周りを、子供達が2周歩くの」
「……何の意味があるの? それ」
「確か、お母様によれば、1週する時に、入り口で見つけて、2周目で確認して呼び出す……だったかな?」
「見つけて、呼び出す? ……誰が、何を?」
「そこらへんはわからないけど、多分鵺じゃないかな? 1周目で、蔵の入り口で子供を見つけて、2周目になって、もう一度確認して呼び出す………とか」
「……何のために?」
「それ以上はわからないよ。それに、私だって、この前、その祭りの話を、お母様から聞いたばかりだし、お母様も、誰かが呼び出されたなんて、聞いたこと無いって言ってたし。確認したけりゃ一緒に来ない?」
「確認って……まだ私が呼ばれるか決まってないのに……でも面白そう。行くよ、私も」
「やった! 祭りは明後日からだから、早めに行こう、明日行こう!」
「あ、明日!? さすがに早くない?」
「善は急げだよ! じゃあまた明日、朝七時に私の家集合! じゃあね!!」
そう言うと、走って帰ってしまった。
「えっ、ちょっと待っ……いないし」
その後、夜子も帰宅。
「おかえり!」
家に入ると、小夜が出迎えてくれた。
小夜は、夜子の妹で、小学6年生。こっちも同じく、活発で元気な、夜子に似た妹だ。
「ただいま、小夜。実はね……」
夜子は小夜に、その日あったことを伝えた。
真昼と旅行に行く事、その先で祭りに行く事、しばらく家を空ける事、宿題は向こうで済ませる事、など。
小夜は終始「いいなー」と目を輝かせていた。
「羨ましいよお姉ちゃん! 私も旅行行きたいー!」
「だーめ! あんたは家で宿題でもやってなさい!」
「えー?」
残念な顔をする妹を後目に、夜子は着々と準備を進めた。
そして、当日―――。