宿題
「夜子ー! 朝日ー!」
山を降りた辺り、開けたところで、真昼の声が聞こえた。
「真昼!」
声に気付いた夜子は走り出した。朝日もそれに続く。
「夜子、まさか……元に戻ったの!?」
「うん!」
ぎゅっと、親友を抱き締めた。
「よかった、夜子……」
嬉し涙を流しながら、呟いていた。
それから三日間、夜子は死に物狂いで持ってきた宿題に手をつけた。一週間程宿題を放置したことになり、夏休み的にはまだ余裕があったが、宿題は早めに終わらせるのが、彼女のやり方だったからだ。
「終わっ、た……」
国語、数学、社会、英語、読書感想文、日記を全て終わらせた。借りていた部屋で、大の字になって畳に寝転がった。
「夜子、やりすぎ」
ふと、目を開くと、呆れた顔で朝日が見下ろしていた。
「だって、夏休み、楽しみたいじゃん。遊びに行ったりしたいし」
「だからって、これ……夏休みって後二週間くらいあるだろ? 日記まで終わらしてるし……半分は創作か?」
「半分じゃなくて全部」
監禁されてました、なんて、絶対に書けない。
「前半は創作で、後半は予定。見ていいよ」
「どれどれ……」
ぱらぱらとめくると、色々書いてあった。真昼と海に行った、小夜の宿題を手伝った、一日中宿題をした、等々……その中に、『朝日とデートした』というページを見つけた。
「ちょっ……」
頬を赤くした朝日を見て、夜子は小さく舌を出した。
「張り切りすぎ?」
「いや、その、えっと……」
両手をついて素早く起き上がると、彼の服の袖を掴んで座らせた。
「私、本気だから」
次いで、にっこりと微笑んだ。
「夜子ちゃん、この度は本当にごめんね」
帰路につく日。真昼と朝日が乗ったキャンピングカーの前で、真昼の祖母が頭を下げた。
「もういいですよ。お祭り自体は楽しかったですし、だから……次は、別の種類の祭りを行うのはどうです? 鵺も、それを望んでますよ」
「そう? ……考えてみようかしら」
楽しそうに答えた。
「おばあちゃん、また来ます! ありがとうございました!」
遠ざかるキャンピングカーの窓から手を振ると、嬉しそうに、手を振り返してくれた。
町へ向け、車が走る。ふと、外を眺めると、遠く離れた民家の窓から、闇夜が顔を覗かせていた。
夜子が軽く手を振ると、深々と頭を下げた。
それは、謝罪の礼でも、鵺に対する敬いの礼でもなく、感謝の意味の礼だった。




