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  作者: 颪金
13/15

真実

「う、ん……」

 視界に、綺麗な星空が映る。

「夜子」

 横目で見ると、朝日が、優しく夜子を見下ろしていた。

「朝日……」

 起き上がって、あることに気付く。

 身体が、元に戻っている。紛れもなく、人間だ。

 そして、そんな夜子は今、ボロボロの服を着ている。もう、色んなところが丸見えだった。

「きゃあっ!!」

「うわっ!?」

 軽く朝日を突き飛ばし、近くの茂みに身を潜めた。

「いやっ、ちょ……朝日!」

 恥ずかしさなのか怒りなのか……必要以上に、語気が強まる。

「待て、待てって!」

 朝日は顔を赤くしながら、着ていた上着を脱ぎ、夜子を見ないように顔を背けながら差し出す。夜子はそれを引ったくった。

「見ないでよ? 絶対、見ないでよ?」

「見ないって」

「……振りじゃないからね!?」

「わかってるよ……」

 朝日は若干、呆れていた。


「も、もういいよ」

 言われたので、振り替えると、股下十センチ程、裾は萌え袖状態の夜子が、恥ずかしそうに立っていた。

 これはこれで……と思いはしたが、言わないでおく。

「ありがとう、朝日」

「いやっ、俺は、別に……」

 ぱたぱたと振る彼の手を、まるで飛んでいる虫を捕らえるように、両手で掴んだ。

「身体が軽いよ……本当によかった」

 喜ぶ夜子を見て、朝日は安心したように、頷いた。


「そういえば、闇夜さんは?」

 下山する道すがら、彼に訊いた。

「先に山を降りたよ。すっきりした顔してた」

「そっか……それなら、もう大丈夫だね」

「え、どういうことだ?」

「鵺は、ちゃんと時間を返した……いや、性格に言うと、"鵺の時間を解いた"、って感じかな」

「……」

 しみじみする夜子と違い、朝日の頭にはまだ、はてなが浮かんでいた。それを、夜子は感じ取った。

「私ね、蔵にいた時、鵺の気持ちがわかったんだ」

「鵺の気持ち?」

「鵺はきっとね、こう思ったはずだよ。『なぜ、何の罪も犯していない自分が、こんな目に遭わないといけないんだろう』って。だから、始めは穏便に済ませようとした鵺も、"逆ギレ"したんだよ。私が、そうしたみたいに」

「いや、でも、それで夜子が鵺になる理由がわからない」

「鵺を捕らえた後、初めは拒んでいたって、真昼のおばあちゃんから聞いたんだ。その時は、鵺自身が、蔵から出ようと抵抗していた。でも、抵抗する力が無くなった鵺は、次に、子供に助けを求めた。でも、その子供達の名前には、夜が入っていなかったから、鵺を解放するだけの力が無かった……子供を呼ぶ力も無くなった鵺は、ただ、助けを乞う視線しか送れなくなり、それすらも、蔵の鍵にお札を貼られて、目隠しをされてしまった。私が蔵の前で感じた視線は、鵺の気配だったんだ」

「え、ばあちゃんの話だと、鵺は蔵から出て、供え物を貰うと蔵に戻るって聞いたけど……」

「昔の話だからね、歪まれるものだよ。実際は、ずっと閉じ込められたままだったと思う。そんな時、一年に一度、目隠しの札が取られる日に、名前に夜を持つ人間が現れると知った。渡りに船だと思ったのかな……私には、鵺を解放できる力があったから、私を通じて、鵺は外に出た。でもその時、私の中に、鵺の要素が残ってしまった―――それが、私が鵺になった理由。

 ここからは私の推測だけど、闇夜さんが、私を蔵に入れたのは、私をオトリにして、鵺をおびき寄せようとしたんだと思う」

「でも、鵺はどうやって、夜子が来ることを知ったんだ? あの着物は?」

「そこがね、微妙なんだ」

 くしゃくしゃと頭を掻く。

「鵺は、目隠しをされていたけど、音は聞こえていたから、私が来ることはわかっていたと思う。多分、身長とか体格とかも、その時にわかったのかな。でも、私があの時着ていた着物を用意した人の夢に出てこられた理由がわからない……名前に夜が入っている人は、現在の坂本家では、闇夜さんだけだし、もしもあの人も、実は名前に夜が入っていたんだとしたら、私じゃなくて、その人に助けを求めていたはずだし……」

「……夜子、その人の特徴って、わかるか?」

「え? えーっと……」

 ばたばたしている中でしか会っていなかったが、夜子は思い出せる限りの、その男の情報を朝日に伝えた。

「なるほどな……その人、多分、サクさんだ」

「サク? どういう漢字?」

「こう」

 地面に指で、『(サク)』と書いた。

「母さんから、聞いたことがある。新月と同じ意味なんだって」

「新月……」

 新月の夜は、月が見えない、まさに闇。

「夜子の話を総合すると、夜と明記されたわけじゃないけど、夜の親戚みたいなもんだから、夢には、出ることができた、って感じかな」

 夜の親戚。面白い言い方をする。


「鵺祭り、これからどうなるんだろ」

 朝日が呟いた。

「もう無くなるんじゃないかな……鵺も、もうあの蔵にはいないし」

「だよな……もうこりごりだよ。普通の村祭りでいい」

「そうだね……」

 自然と、口数が少なくなっていく。二人共、とても疲れきっていた。


「……朝日」

 彼の手を掴んだ。振り替えると、俯く夜子がいた。

「こういうのって、吊り橋効果っていうのかな?」

 その言葉と、彼女の表情を見た朝日は、事態を察した。段々、頬が熱くなる。

「ど、どっちかっていうと、怪我の功名じゃね?」

「それは違う気がするけど……」

 少し、間を置いた。

「朝日、こんな私でよかったら、付き合ってくれる?」

「……うん。俺で、よれけば」

 告白したつもりが、告白されてしまった。

 空が、ゆっくりと、明るくなっていった―――。

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