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  作者: 颪金
12/15

闇夜

『彼は、鵺に呪われた』

 そう言われたのは、随分前。かれこれ、百年は経つ。

 これまでのしきたりでは、鵺を満足させることはできても、村への利益があまりにも少なすぎる。

 鵺を捕らえようと考え、祭壇へ赴き、時を待つ―――その時は、案外早く来た。


 まだ、若い鵺だった。


 そもそも、鵺は長い時を生きる。若いと言っても、もう何百年と生きた鵺だろう。

 鵺になるのは、人も鵺も、互いに消耗する。その時を狙った。

 少なくとも、そこで一度、鵺になれた。だが、その先が問題だった。


 鵺は完全に身体から抜けきらぬうちに、蔵に封じられた。


 抗ったが、もう遅い。俺は完全に、鵺の時を、取り込んでしまった―――。


「……家系図を書き換えるのは、簡単だった。俺から始まった代だ、どうとでもできる」

 項垂れながら呟く深夜を見て、朝日は、理解が追い付いていなかった。

「ちょ、ちょっと待ってくれ……今の話から、総合したら、深夜は……」

「深夜じゃない」

 朝日の言葉を遮った。

「俺が本名を教えていない理由は、鵺の呪いを受けたことを、周囲に知られたくなかったからだ」

「じゃあ、あんた、本当は俺達の、ご先祖様ってことか?」

「ご先祖様、か……その言い方は、間違いじゃないがな……」

 場違いに笑い、立ち上がった。

「俺は、深夜のような、"深い夜"ではない。もっと暗い、"闇"だ……」

「で、でも、顔が……俺がまだ小さかった頃、あんたもまだ、若かった……」

「整形すれば、どうにでもなる」

 言い終えて、夜子を見た。

「だが、わからない……鵺が、俺を見捨てたわけではないというのは、どういうことだ?」

「それは、直接、証明しましょう」

 彼女も、小さく笑い、手を広げた。


 それまで静かだった山頂に、強風が吹き荒れる。


 朝日以外の二人だけが、その気配を感じていた。


 トラツグミの鳴き声。


 祭壇を見る。


 虎の手脚、蛇の尻尾、狸の胴体、そして、猿の頭。


「……鵺」

 先に言ったのは、朝日だった。


 蛇の尻尾を振り、三人を見た。

「ごめんね、返しに来たよ」

 夜子はそう呟いて、鵺へと近付いていく。

 太い首に腕を回して、その巨体を抱き締めた。


「   」


 言葉にできない声で、鳴いた。


「―――夜子!」

 その場に倒れた夜子に、朝日は咄嗟に駆け寄った。

 着ていた服がぼろぼろになっていた。切れ目から、真っ白な肌が顔を覗かせる。

「鵺様!」

 闇夜が叫んだ。

 鵺は、彼を見て、微笑んだ……ように見えた。


 空を仰ぎ、突風を吹かせながら、茂みの奥へと消えていった。

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