仕事開始
「ただいま〜。」 「「お邪魔します。」」
小牧、伊吹、秋水の声が響く。
「お帰り。遅かったな。」
朝希が出迎える。
「聞いてよ〜。こいつ、ちょーバカ!」
小牧は秋水を指差しながら、朝希に言う。
「あれは、お前が・・・」
秋水は歩き出した小牧達の後を追いながら言う。
「ホント、マジむかつく。」
リビングのドアを開けながら小牧は言う。
「何キレてんだよ、小牧。」
文句を言いながら入ってきた小牧に、草芽が言う。
「だって、聞いてよ!秋水ってば私が『白鳳焔』だって気付いてなかったんだよ?」
小牧が草芽に愚痴を言う。
「・・・はぁ?だって、学校一緒だろ?」
草芽は目を丸くして言う。
草芽だけでなく、他の皆も目を丸くしている。
「う・・・」
秋水は言葉に詰まる。
「しかも、『白鳳焔』は白い制服だろ?」
「う゛・・・」
「さらに、俺様達は校内で散々仕事したぜ?」
「う゛ぅ・・・」
「んでもって、お前は小牧じゃなく、リリアの時が初対面なんだろ?」
「・・・・・・・・・」
「お前バカ決定。」
草芽は冷めた目で秋水を見て言う。
「その状況で気付かないのはおかしいだろ・・・」
夕夜も溜息をつきながら言う。
「同感。」
柚葉も溜息をついて言う。
「これは、今回大変そうだね・・・」
蓮華も苦笑いをしながら言う。
「だってそれは!!」
秋水が、空気に耐えかねて言う。
「うっさい。黙れバカ。」
草芽は秋水を黙らせる。
「もういいから、とっとと打ち合わせとかしようぜ。」
夕夜は疲れたように言う。
夕夜の言葉に、みんなはテーブルを囲むように座る。
「ハイ、お茶。」
いつの間にかキッチンへ移動していた朝希と小牧が、人数分のお茶とお菓子を持ってきてテーブルに置く。
「八代の依頼を受け、2人の結婚を応援する事になった。」
一息ついた所で朝希が言う。
「仕事は、私と朝希が担当する事になったから。」
小牧が言う。
「俺達は、婚約式当日にガードを担当する。」
夕夜が言う。
「パパとママの、ガードの娘の式だからね。一応用心しとかないと・・・」
蓮華が言う。
「・・・何か言いたそうな顔してるけど?」
柚葉が秋水に聞く。
「パパとママって事は・・・」
秋水が遠慮がちに聞く。
「救いようのないバカに、俺様が親切に説明してやる。柚姉ェ、俺様、蓮華の3人は、龍神・シエルと邪神・ユールの子供。俺様達は、神族・御子神なんだよ。」
草芽がめんどくさそうに言う。
「ついでに言うと、俺は魔王・サタン様の従者で悪魔族だ。」
夕夜がお菓子を食べながら言う。
「んで、俺達は天魔族王家の者だから。」
朝希もお菓子を食べながら言う。小牧もお菓子を食べながら首を縦に振っている。
「さて、ここから本題だけど。秋水、月島和音に覚えはあるよね?」
小牧がお茶を一口飲んで言う。
「・・・ある。」
秋水は呟く。
「そいつさえ押さえれば、式は楽に行くはずだ。俺らが認めるように説得するが・・・」
朝希が言う。
「最後は、自分の力で認めさせなさい。」
小牧が真剣な表情で言う。
「認めさせるチャンスは必ずある。しっかりやってね。」
蓮華が言う。
「・・・ああ。頑張るよ。」
秋水が言う。
「じゃ、本日は解散!」
夕夜がパンパンと手を叩き、立ち上がる。
「じゃ、私達は帰りますね。」
伊吹がにっこりと笑って言う。
「あ、伊吹に質問。ホントにこのバカでいいワケ?ぶっちゃけ、財産目当てかもじゃん。」
草芽が秋水を指差して言う。
「秋水は財産目当てで私に近づいたんじゃないと思うし、因幡の財産は八代兄さんの物だから、私には関係がないわ。例えそうでも、私が秋水を愛してるから、秋水がいいんです。」
伊吹は幸せそうに微笑んで言う。秋水は顔を真っ赤にさせている。
「安心していいよ。秋水はそこまでバカじゃない。伊吹の事を想ってるよ。」
小牧もにっこりと笑って言う。
伊吹と秋水はお辞儀をすると、帰って行った。
八代から依頼を受け、朝希と小牧は翌朝から本格的に仕事をやり始めた。
「これで殆どの人が秋水の事認めたかな?」
小牧はメモを見ながら言う。
「好きな人が結婚って、やっぱ認めたくねぇもんなぁ。」
隣を歩く朝希が言う。
「しかも、好きな人より格下じゃあねぇ。」
小牧もうんうんと頷きながら言う。
「あとは月島和音だけなんだけど・・・」
朝希がメモを見ながら言う。
「何回か説得したけど、ダメだったもんね。」
小牧が溜息をしながら言う。
「式は明日だし、今日中に何とかしなきゃな。これから家の方に行ってみるか。」
朝希が言う。
今は放課後となっている為、月島和音は帰宅しているのだ。
「そうだね。」
小牧も頷き、2人は月島和音の家へと向かうことにした。
「またお前らか。」
朝希と小牧が月島邸について、和音に会った瞬間に和音は言った。
「これも仕事でね。」
朝希が言う。
「何度来ても、俺は神崎秋水を認めない。」
和音はキッパリと言う。
「なぜ認めない?」
朝希は聞く。
「秋水と結婚しても、幸せだとは思えないからだ。」
和音は言う。
「なぜ、伊吹の幸せがあなたにわかるの?」
小牧は言う。
「神崎家は、因幡家よりもずっと格下だ。苦労するのが目に見えてわかる。」
和音は言う。
「確かにそうかも知れない。でも、今の伊吹が愛しているのは秋水であって、あなたではない。秋水を認めなくてもいいけど、伊吹の望む幸せをあげてもいいんじゃない?」
小牧が言う。
「・・・普通、秋水込みで認めろって言わないか?」
和音は目を丸くさせて言う。
「普通はね。でも、お前が秋水を認めないのは、伊吹を想っての事だ。だったら、秋水がダメだと思った時には奪えばいい。」
朝希は言う。
「・・・・・・・・・」
和音は2人を見てるだけで何も言わない。
「これだけ教えといてあげる。蓮華が『力』で見た未来がある。式の時に事件があるわ。そこで決めなさい。」
小牧は言うと背中を向けて歩き出す。
「式には出席しろ。伊吹が喜ぶ。」
朝希もそれだけ言うと背中を向けて歩き出す。
「・・・俺は・・・」
和音は呟き、2人の姿が見えなくなっても立ち尽くしていた。
「和音様、早く入りませんと風邪をひいては大変です。」
メイド服を着た、栗色の髪を三つ編みにした少女が現れて言う。
「・・・瑪瑙、俺はどうしたらいいのかな?」
和音は、視線を朝希と小牧が消えた方向に向けたまま、メイドの少女・瑪瑙に聞く。
「和音様は、伊吹様がお好きなのでしょう?」
瑪瑙は言う。
「ああ、そうだよな。ありがとう、決心がついた。」
和音は瑪瑙の顔を見て言う。
「私は、お礼を言われる様な事は何もしてません。」
瑪瑙は言う。
「言いたかったんだ。ありがとう。」
和音はそう言うと、家の中へ向かって歩き出す。
「和音様のお役に立つ事が出来たのなら、光栄です。」
瑪瑙は和音の後ろを歩きながら嬉しそうに言う。
しかし、声とは裏腹に口元に妖しい微笑みを浮かべていた事に、和音は気付かなかった。