ナイフ
カッコイイ。
一目惚れだった。
なにげなく入ったDIYの店で魅入られてしまい衝動的に買っていた。少ない小遣いを惜しむことなくレジの店員にさしだしていた。
これさえ手に入ればよかった。
手元において愛でているだけでよかった。
その銀色に光切っ先、優美な線を描く危険に磨ぎすまされた刀身。しっくり手におさまる柄。
それははじめから自分のためだけに用意されていたような錯覚さえおこさせた。
店を背にして黄昏をすぎた頃、東のきわに姿を現われだした弓なりの月に似た笑みをたたえていた。我知らずと…
魔性のモノが姿を現わしだす逢魔が時を越え、丑三つ時へと様子を変えていく妖しげな光を瞬かせるイルミネーションの中へと麗しのナイフ片手に街並に溶け込んでいった。
闇に溶けるように…
めんどくさいのになぜだか原田は毎日かかさず学校に通っていた。親にぶつぶつと嫌味を言われるからでもあったからで、皆勤賞を目指しているわけではない。
ただ、なんとなく。そう、なんとなく適当な友達と雑談を楽しむためだけに学校という型にはめられた場所へと登校していた。
だから、浅岡に声をかけられたときにはひどくとげのある返事をしていた。
「あん、なんって?」
「あのー、その数学のノートをね、提出しないといけないから、今集めてるんだけど原田くんは出してくれないかなと思って…」
おどおどしたように掻き集めてきたノートを胸に抱く浅岡の態度に原田は腹の底がムカッとするような蠢きを感じた。
女みたいなしゃべりをする奴だと思った。
「なんで、ださねぇといけねぇんだ」
「そのー、数学の牧田先生が今日集めるようにいったからなんだけど…もしかして知らなかったかな」
誰もそんなことなど聞いてはいない。
昨日の数学の時間に、『三十五ページの問題をやって、明日全員提出。一学期の成績に響くとおもっておけよ』と言ったことなど、浅岡に言われなくても覚えている。
そんなことどうだっていいんだ。
牧田も、宿題も、成績なんてどうだっていい。正直言って、原田に関係などない。律儀に授業のノートだってとっているわけでもないのだから。
無視をしていると、さらに浅岡は声をかけてきた。
「あっ、もし…忘れたんだったら、牧田先生に話しておくから、明日にでも僕に渡してくれればいいよ」
おりこうさんぶってよ。
原田の腹の底はグルグルと渦を巻きはじめているのか、波をかきたてはじめてるのかわからなくなってきていた。だが、確実に蠢いている。
ムカつくんだよな。
銀色の切っ先が頭をよぎった。
こいつのくさりきった頭をあの光り輝くナイフでかちわったらどんなだろうか。
良い子ちゃんの皮が剥けて、原田のように宿題なんてしなくていい、ノートなんてださなくていいなんていう悪い子ちやんがちっとでも本性をだすだろうか。
それとも、ただの良い子ちゃんは傷をおっていたそうな顔をするだけなのだろうか。
どちらにしてもおもしろそうだ。
ニヤリと原田は笑った。だが、浅岡は気付かなかった。
アホだな。かいがいしくも教師にいいように使われて、それをすんなり受け入れる。言われたとおりにすることに疑問も持たない、こいうのを優等生っていうんだろうな、と原田は思った。
いらつく。
そうやって、なにかに従って犬になってこきつかわれていることがおかしいと思わないのだろうか。
原田はカバンに隠した銀色の刃を隠せなくなっていた。
とにかく、ムカつくんだよ。いらつくんだよ。良い子ちゃんぶった優等生が物凄く勘にさわる。いいかげん目の前からさっさとうせやがれ。
長い沈黙をたもっていた原田をじっと待っていた浅岡に不意に笑顔が向けられた。
「浅岡、今だしてやるよ」
それはひどく好奇心と悪意を持ったニタリとした顔だった。
原田はカバンの中から獲物を持ち銀に輝くナイフをとりだし、ふりおろした。
浅岡が放つ悲鳴と銀色が紅に変貌するのとどちらがはやかっただろう。
あまり考えず書いたので、お見苦しい文章になりました。原田の憎悪をもっとちゃんと描ければよかったのにと、悔いて悔いてしかたがないです。本当に拙い文章を読んでいただきありがとうございました。




