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ぼく  作者: クルトン
8/12

人質の自覚がないという自覚すら実はない

ぼくは人質らしい


らしい、というのはぼくに人質の自覚がないからだ


人質の自覚がないという自覚すら実はなかったりするのだが


“自称誘拐犯”はぼくに人質らしくしろと事あるごとに言ってくるけど、人質らしさというものがぼくにはわからない


よって人質らしくしようがないので、例を実演して見せてくれと言ったら自称誘拐犯は珍しくうろたえていた


いや、最近はぼくがちょっと悪戯をすると無言のままうろたえているので、あんまり珍しくないかもしれない


あの時は確かこの電波めと罵られた


隣の家から貰ってきた魚を綺麗に捌いて、床に点々と並べておいただけなのに。


ちなみにこれはあんまり暇だったのでネコを誘き寄せようとしていた時だったはずだ


結果は猫ではなく誘拐犯が釣れたわけだが


誘拐犯は家の外からぼくの足もとまで点々と続いている魚の切身を見て珍妙な顔をしていた


とは言っても、仮面をつけているので顔は見えないが、雰囲気だ。


あの時の誘拐犯の混乱ぶりは今思い出しても笑いがこみ上げる。


でもぼくが思い出し笑いをしていると誘拐犯は花瓶を投げてくる


誘拐犯はこういうところではやたらと勘がいい


道端にある落とし穴には全く気付かないのにだ


とても不思議である。


世間の誘拐犯はみんなこうなのだろうか。


まあとりあえず、どうやら誘拐犯にも人質の具体的な例は分からないらしいのできっとぼくはこのままでいいんだろうという結論に達した


と言うと馬鹿にするなと蹴られた


どうやら分からないわけではないようだけど、ならなんでやらないのか


誘拐犯は珍しく頭を抱えて何か悩んでいる


いや、最近はそう珍しいことでもないかもしれない


最近はぼくと話をしていて急に言葉に詰まって頭を抱えることが多いからだ


少し前などはそのままふらっと立ち去って丸二日帰ってこなかった


二日後に何だか憔悴した様子で現れて、ぼくの肩をがっしりと掴んで言ったものだ


“常識を学べ”


と。


ぼくは誘拐されているらしい今の状況の前の記憶が一切ない


記憶喪失というやつなのか、それとも記憶すら無いか、どっちなのかも分からない


だから、常識的に考えて常識を教えるのは誘拐犯の役目だと思う


そう言うと、自称誘拐犯は常識を知らん奴がどこで常識的なんて言葉を……とぼそっと呟いた後、どこの誘拐犯が人質に対して教育なんかしてやらねばならんのだと吐き捨てた


でも、昔から、誘拐犯の用いる手段として人質を懐柔して人質兼仲間あるいは部下にしてしまうというのも実はある


だから、ぼくは単に誘拐犯はものぐさなだけなんじゃないかと思ったのだが、


こういうところで妙に勘がいい誘拐犯は驚きの素早さでぼくに膝カックンを仕掛けてきた


誘拐犯は仕返しが幼稚であるということを学んだ。


ぼくはまたひとつ賢くなった。

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